凄腕救急医は離婚予定の契約妻を湧き立つ情熱愛で離さない

「そうです」
 仲村も透を真っ直ぐに見た。
「妻、が大変お世話になっています」
 美鶴は眼を見開いた。透の口から妻という言葉が出てくるなんて。仲村も同様に驚いている。
「は?妻?美鶴ちゃんが? ……ちょっと待ってください。結婚してたなんて一ミリも知らなかったんですけど」
「そうでしたか。ではこれを機に妻とは距離を取っていただけますか? あなたの言動や態度はコンプライアンス違反だ。気を付けないと今後のキャリアに傷がつきますよ?」
「そうやって黙らせるやり方、ダサいですよ」
「ダサい?」
「はい。ダサいです」
 一触即発と言わんばかりの空気に美鶴は押黙った。事の原因が自分にあるとはいえこの場を丸く収める方法などは皆目見当もつかない。
とにかく何か言わなければ、そう思い口を開きかけた時、透の電話が鳴った。電話の向こうの相手といくつか言葉を交わす。 
「患者が到着するようだからいかないと」
 救急科からの呼び出しのようだ。透はおおむろに席を立つ。
「美鶴、帰りは一緒に帰ろう。また連絡する」
「はい」
 透の姿が見えなくなると、仲村は大げさにため息を吐いた。
「結婚してるってどうして話してくれなかったの? いきなり知らさてすごくショックだったんだけど……」
「ごめんなさい」
美鶴は俯いた。本当に申し訳ないと思っている。仲村の好意は感じていたし、既婚者だと伝えるタイミングはあった。それでも話せなかったのは透との結婚はあまり多くの人に知られていないほうがいいと判断してのことだ。という理由さえ話せないのがもどかしい。 
「いや。別に謝ってほしいわけじゃないんだ。なんか君たち訳ありっぽいからさ。違う?」
 図星を付かれて美鶴は言い訳を探す。けれど仲村は言葉を待たずにこう続けた。
「でもちゃんと愛されてるんじゃん」
「……愛されてる?」
 予想外の言葉に美鶴は首を傾げる。すると中村はあきれたように笑った。
「わからないなら教えてあげる。同じ職場で働くことも、わざわざ僕をけん制しに来ることも興味のない女にはしないよ」
「そういうものなのでしょうか?」
 男性の、特に透の考えていることはよくわからない。
「嘘だと思うなら確かめてみたら? もし違ってたら僕が責任取るから安心して」
 仲村は冗談交じりにそういうと片眼をつむった。