凄腕救急医は離婚予定の契約妻を湧き立つ情熱愛で離さない

 車は首都高を走り、横浜で降りた。目の前には海が広がり潮の香りが鼻をかすめる。
「ここ、テレビで観たことがあります」
 このレンガ造りの建物にもいつか行ってみたいと思っていた。思わぬ形で夢が叶い美鶴は子供のようにはしゃいだ。それからスマホのカメラ機能を立ち上げて何枚か写真を撮っていると、
「美鶴、貸してごらん」
 透はそういって美鶴を建物の近くに立たせた。透がスマホを構えると、近くにいた年配の男性が「あなたも入りなさい」と声を掛けくる。
「ありがとうございます」
 透は素直に礼を言い、美鶴の左隣に立った。
「二人とも、もっとくっついて!」
 その言葉通り透は美鶴の肩を引き寄せる。突然の出来事に美鶴は透の顔を仰ぎ見た。
「いいんですか?」
「どういう意味? ほら美鶴、笑って」
 透は腰を屈めて美鶴の頬に顔を近づけてきた。緊張で鼓動がうるさい。顔が強張って上手く笑えない。早く終わってほしいのに、ずっとこのままでいたいと思ってしまった。年配の男性は数回シャッタを押した。「とてもよく撮れたよ!」ととても満足そうにスマホを返してくれる。
「ありがとうございました」
 丁寧に礼を言い、スマホを受け取ると画像をみた。男性の言う通り、仲睦まじい夫婦の姿がそこにあった。
「本当だ。よく撮れてるな。待ち受けにしたら?」
 思いがけない言葉に美鶴は弾かれたように透の顔を見上げた。憧れの透とのツーショットをいつでも眺めることが出来るのは嬉しい。それを透自らが提案してくれるなんて驚きだ。
「いいんですか?」 
「もちろん。夫婦なんだから当然だろ?」
――ああ。いけない。勘違いしそうになる。
透はあくまでも夫婦を装いたいだけだ。それをわかっていながらゆだんするとつい愛されていると勘違いしそうになる。
「俺にも送っておいて」
「分かりました」
 美鶴は頷いて、透へ画像を転送した。