凄腕救急医は離婚予定の契約妻を湧き立つ情熱愛で離さない

「ここでいいですか?」
「ありがとな。おねえさんはここで待っててくれるかい?」
「はい。ゆっくりお買い物してきてくださいね」
 美鶴は売店の入り口のわきで車いすを畳んだ。出入り口に近いせいか少し肌寒い。三月も終わりを迎えようとしているのに春はまだ遠そうだ。美鶴は両腕をこすりながらカーディガンを着てくればよかったと少しだけ後悔した。
患者が店に入ってから十分程たった。けれど戻ってくる気配はない。美鶴は心配になり店内を探した。患者は総菜の棚の前でかがんでいる。商品を選んでいるのだろうかと思ったがどうも様子がおかしい。
美鶴は駆け寄った。
「どうかしましたか? 大丈夫ですか?」
 返答はなかった。顔は青白く、着ていたパジャマが透けるほどびっしょりと冷や汗をかいている。やがてどさりとその場に倒れ込んだ。呼吸は辛うじてしているようだが苦しそうに胸のあたりをかきむしっている。どうみても車いすで病棟へ連れ帰れる状態ではない。
「ど、どしよう」
 美鶴はパニックになっていた。狼狽えるばかりで助けを呼ぶこともできない。
「何科の患者さん?」
 そう聞かれて振り返ると濃紺のスクラブを着た若い医者が心配そうにこちらを見ている。
「じゅ、循環器です」
「あれ君、新しいナースエイドさんじゃん。取りあえず人集めてきて」
「え……人? どうすればいいのか……」
「外来で急変ですって叫んで。みんな集まってくるから。それから病棟に電話して。落ち着いてね、大丈夫だから」
 早口で、でも的確に指示を出すとその医師は患者の応急処置を始めた。美鶴は言われた通り外来で「売店で急変です」と叫ぶと医師や看護師が売店へ駆けていく。それから受付で電話を借り病棟へ電話を掛けると個室の患者が売店で倒れてしまったことを伝えた。