凄腕救急医は離婚予定の契約妻を湧き立つ情熱愛で離さない


「どうした? なにも見てないから出ておいで」
「嘘つかないでください」
 さすがに見ていないというのは無理がある。それが透の優しさだとしてもだ。
「じゃあ、見た」
「やっぱり。恥ずかしすぎて合わせる顔がありません」
 このまま放っておいてくれたらいいのに。そう美鶴は思うが透はなおもドアをノックする。
「……じゃあ、どうしたらいい? 俺も脱いでお相子にしようか」
 カチャカチャとベルトのバックルの金属音が聞こえて美鶴は慌ててドアを開けた。
「ダメですそんなことしないでください」
「やっと出てきた」
 にやりと笑う透。ズボンははいたままだ。
「騙したんですね」
美鶴が非難すると「今からでも脱ごうか?」とベルトに手を掛ける。
「ストップです! 真面目な顔してこれ以上おかしなこと言わないでください。イメージが崩れます」
「俺のイメージ? それはどんなものか気になるな。ディナーでも食べながらゆっくり聞かせてもらおうか」
「ディナー? どうして」
 予想外の言葉に美鶴は目を瞬かせた。
「今日、初出勤だっただろう? 就職祝いをしよう」
「はい……え?覚えていてくれたんですか?」
 てっきり忘れられていると思っていた。今朝も早々と家を出てしまったし、ここしばらくは顔を合わせない生活が続いていたから。
「知り合いのシェフに作ってもらったんだ。すぐ準備するからこっちに来て座って」
「はい」
 美鶴は言われるがままダイニングテーブルに座った。透はスーツの上着だけ脱いでワイシャツの袖をまくりあげる。手を洗い、皿とグラス、カトラリーを並べて三段に重ねられた箱をひとつずつ開けていく。フレンチのフルコースが仕切りごとに品よく収められている。視覚的にも美味しいとはこういうことを言うのだろう。