家に着くと養母の瑤子がキッチンから顔だけ覗かせた。
「お帰り、美鶴ちゃん」
小柄で色白な養母は私と姉妹に間違えられることがある。それを遠慮がちに報告してくるところがお茶目でかわいいと美鶴は思っている。
 コートを脱ぐとハンガーに引っ掛けてキッチンヘ向かった。
「遅かったのね。残業?」
「そうなの~いい匂い。急にお腹が空いてきちゃった」
「今日はシチューよ。手を洗って運んでくれる?」
 料理上手の瑤子はバターやチーズなどは買わずに作っている。昔から美鶴のオヤツもすべて手作りでクッキーやケーキ、アイスクリームなどを季節ごとに替えて出すものだから遊びに来る友人たちはとても羨ましがっていた。
 流しで手を洗うとダイニングテーブルに今朝焼いたパンとバターを並べ鹿肉の入ったブラウンシチューは鍋ごと置いた。ポテトサラダには明彦がスモークしたベーコンがふんだんに入っている。とても豪華な夕食だが肉も野菜も小麦も、自家製かご近所からの頂き物で済ませている。
お腹を満たした美鶴は早めにベッドへ入った。体は疲れているのになぜか頭は冴えていてなかなか眠ることができなかった。
志木透。彼は目を醒ましただろうか。