凄腕救急医は離婚予定の契約妻を湧き立つ情熱愛で離さない


「ここって……?」
「誤解のないように言っておくが、ここにある家具はすべて両親が送ってきたものだ。婚約者との結婚を急かしたかったんだろう。もちろん誰も使っていないし、使う予定もないから早急に処分するつもりでいたんだ。けれど間に合わず美鶴を家に招くことになったのは申し訳なかった」
「そうなんですね……」
あの両親ならあり得る話だと美鶴は思った。
「美鶴の家具は明日買いに行こう。それまでは俺のベッドを使ってもいいしなんならホテルをとってもいい」
 透の提案に美鶴は首を横に振った。
「私はこれで平気です。ご両親は嫌かもしれないけど、新品の家具を捨てるのはもったいないし物には罪はありませんから」
 透の婚約者のために贈られた家具。それに囲まれて生活するというのはあまり気分のいいものではない。けれど、そう言えるのは本物の妻だけのような気がする。自分はあくまでも期限付きの仮の妻でしかないのだから。
「ではせめて、ベッドカバーやラグだけでも美鶴の好きなものを揃えないか?」
透があまりにも恐縮するので美鶴はその提案を受け入れることにした。
「ありがとございます。それくらいなら甘えてみようかな?」
「もちろんだとも。ついでに日用品もそろえないとな。買い物ついでに観光もしようか。行きたいところはある?……の前に、夕食が先か」
「はい。お腹が空いて限界です」
 美鶴は鳴りやまないお腹に手を当てた。思えば飛行機に乗り込む前に買ってもらったサンドイッチ食べたきりだ。もう、八時間ほど何も食べていなかった。
少ししてたくさんの料理が届いた。透は美鶴が迷った方はどちらも注文していたようだ。
「こんなにたくさん!」
「君が悩んでいたからつい……美味しそうだからいいだろう?」
「そうですね! 早く食べましょう。これ、なんだろう~わぁ、いい匂い」
 美鶴は嬉しそうにふたを開けた。イタリア、メキシコ、韓国、中国、タイ料理どれも初めて食べる味ばかりだった。瑤子の作る料理は取れたての素材をふんだんに使った贅沢なものだったけれど、夜中に食べるジャンクフードもとても美味しくて都会にいるからこそできる贅沢だ。
「おいしかったです。ごちそうさまでした」
「俺も久しぶりに食べたけど、旨かったな。それに楽しかった。美鶴のリアクションがいちいち面白くて……」
いいながら透は吹き出す。なにがそんなに面白いのか美鶴には分からなかったがつられて笑ってしまった。
ひとしきり笑った後、透が入れてくれたバーブティーを飲んだ。急に静かになったリビングで透の横顔を盗み見る。
はじめて彼の顔をみた時、綺麗だと思った。それからどこか陰のある寂しい人だとも思った。でも今はまた印象が変わり、優しくて気遣いの出来る人だと思っている。これからいくつ透の知らない顔がみられるのだろう。