2.プロポーズ
「社長。なぜすぐに連絡をくださらなかったんですか?」
着替えの間中ずっと小言をいう秘書の冴木にうんざりしながらも、透は日常に引き戻される感覚に懐かしさを覚えていた。
たった数日の出来事だったのに、まるで何カ月もこの小さな病室で過ごしていた気がする。それくらい時間の流れが緩やかで、仕事をしない日々は退屈で仕方がなかった。
――いや、退屈ではなかったか……。
毎日美鶴がくるのを心待ちにしていた。看護補助者だという彼女は喜んだり怒ったり泣いたり忙しく、おかげで飽きることはなかった
真新しいワイシャツに袖を通し、ネクタイを締める。オーダーしていたハイブランドのスーツはほんの少しゆとりが出てしまった。磨かれた革靴を履き仕事道具の詰まった鞄を持つとずしりと重く感じる。
「待たせたな」
着替えを終えた透がカーテンを開けると冴木は感極まったように目頭を押さえた。
「まさか、泣いてるのか?」
「申し訳ありません。音信不通の数日間、最悪の事ばかり考えていましたから。安心したら勝手に涙が……」
冴木はズボンのポケットからハンカチを取り出すと鼻をかんだ。その姿を見て自分にも帰りを待つ人間がいたのだと思い知らされる。
「それはすまなかった。余計な心労をかけたな」
「ご両親も、彩音さんも皆さんとても心配されてましたよ。とにかく急いで東京へ戻りましょう」
「社長。なぜすぐに連絡をくださらなかったんですか?」
着替えの間中ずっと小言をいう秘書の冴木にうんざりしながらも、透は日常に引き戻される感覚に懐かしさを覚えていた。
たった数日の出来事だったのに、まるで何カ月もこの小さな病室で過ごしていた気がする。それくらい時間の流れが緩やかで、仕事をしない日々は退屈で仕方がなかった。
――いや、退屈ではなかったか……。
毎日美鶴がくるのを心待ちにしていた。看護補助者だという彼女は喜んだり怒ったり泣いたり忙しく、おかげで飽きることはなかった
真新しいワイシャツに袖を通し、ネクタイを締める。オーダーしていたハイブランドのスーツはほんの少しゆとりが出てしまった。磨かれた革靴を履き仕事道具の詰まった鞄を持つとずしりと重く感じる。
「待たせたな」
着替えを終えた透がカーテンを開けると冴木は感極まったように目頭を押さえた。
「まさか、泣いてるのか?」
「申し訳ありません。音信不通の数日間、最悪の事ばかり考えていましたから。安心したら勝手に涙が……」
冴木はズボンのポケットからハンカチを取り出すと鼻をかんだ。その姿を見て自分にも帰りを待つ人間がいたのだと思い知らされる。
「それはすまなかった。余計な心労をかけたな」
「ご両親も、彩音さんも皆さんとても心配されてましたよ。とにかく急いで東京へ戻りましょう」



