凄腕救急医は離婚予定の契約妻を湧き立つ情熱愛で離さない


落ち着いた声。真剣なまなざし。無駄のない動き。すべてが――、
「カッコいいよね」
 心を読まれたのかと思って振り返ると上野が意味ありげに微笑む。
「あなた、志木先生の奥さんなんでしょ? ああ、隠さなくて大丈夫。みんな知ってるから」
「そうなんですか……みんなに知られてるのってなんとなく気まずいです」
「いいじゃない。優秀な旦那さんなんだから。志木先生が来てから救急車の受け入れ台数が増えたの。でも不思議なんだよね。忙しいはずなのに仕事がスムーズに流れていくの。私たちにもちゃんと声をかけてくれるからモチベーションもあがるしさ。ほんといい先生」
「ありがとうございます。自分のことのようにうれしいです。私も頑張らないと!」
 せめて透の妻として恥ずかしくない働きをしたい。美鶴は慣れない救急科での仕事を必死でこなしていく。
気が付けば午後十四時を回っていた。
「ごめんね志木さん、休憩遅くなって。ゆっくり休んできて」
「上野さんは?」
「私はタイミング見て休むから大丈夫だよ」
 美鶴は食堂へ急いだ。普段なら日替わり定食を注文するのだが今日はなぜか食欲がない。思い返せばここ数日ずっと軽い吐き気が続いていた。
「かけうどんください」
 トレイに乗せてカウンター席に座った。ゆっくり休んでいいといわれたが食べたらすぐに戻ろう。
「おつかれさま、美鶴」
「透さん⁉ おつかれさまです」
「となりいい?」
「もちろん。どうぞ」
 透は日替わり定食を注文したようだ。揚げたてのから揚げがおいしいのだが今日は見るだけで胸焼けがしてくる。
「美鶴はそれだけ?」
 透は美鶴のトレーの上を見ていった。
「うん。あまり食欲がなくて……」
「体調が悪いのか?」
 心配そうに美鶴の手を取ると脈に触れた。
「脈が速いな」
「それは透さんがかっこよすぎるから」
「俺が?」
「今日、透さんの働く姿を見てまた好きになっちゃった」
そうストレートに伝えると透はほほを緩めた。
「ここが職場じゃなかったら抱きしめているとことだ」
 残念そうに言って透はいとおしそうに美鶴のほほを撫でた。近距離で見つめ合っていると触れたい衝動が抑えられなくなりそうだ。美鶴は惜しむように視線を外した。
「午後も頑張るね」
「ああ。でもあまり無理はしないようにな」
 うどんはほとんど残してしまった。申し訳ないと思いつつ下膳して仕事場へと戻る。上野はすでに仕事を始めていた。