凄腕救急医は離婚予定の契約妻を湧き立つ情熱愛で離さない


 数か月後。透は相変わらず二足の草鞋を履きながらも、徐々に医師としての仕事を増やしていった。院内に透がいる日は美鶴も安心して仕事ができた。そんなある日の朝、江口が美鶴を呼んだ。
「志木さん、今日救急科に行ってくれる? 一人病欠になっちゃって」
「救急科ですか? わかりました」
 まだ経験したことのない救急科での仕事。透に会える喜びは瞬時にして息をひそめ、自分に務まるだろうかという不安と緊張に包まれる。
「お願いね」
「はい」
美鶴は一階の救急科まで下りていく。処置室の中は数名の患者が治療を受けており、スタッフがあわただしく動きまわっていた。病棟とは違ったあわただしさに面食らいながら同僚の姿を探した。
「あの、おはようございます。江口さんにいわれてきました。志木です」
 明るい髪色の若い女性に声をかける。
「おつかれさま。上野です。来てくれてよかった。とりあえずこことそこのごみ箱片付けてくれる? 終わったら声かけて」
「はい」
 患者と直接触れ合うことはないが、次々と運ばれてくる急患をスムーズに受け入れるためにスピードが求められるのだろう。美鶴は黙々と仕事をしていく。
「美鶴?」
 名前で呼ばれ手を止めた。顔を上げると濃紺のスクラブを着た透が近づいてくる。
「透さ……志木先生。おつかれさまです」
「おつかれさま。どうしてここに?」
「今日は欠員補充で急遽ここで仕事をするように言われたの」
「そうか。お互いに頑張ろうな。じゃあ、また」
 もう少し話していたかったが、透は患者のもとへと行ってしまった。CT画像に目を通し看護師へ指示を出す。それから次の患者の対応を始めた。