式の後、披露宴が行われた。
正式なオープン前のホテルを親族だけで買貸し切れるのは経営者の特権と言っていいだろう。美鶴は八重子と明彦のことをひそかに心配していたけれど、透の計らいですでに和解していたようだった。心にずっとあった氷の塊がゆっくりと溶けていくのを感じた。
透の両親は窮地を救うこととなった八重子に頭が上がらないといった様子で孫娘である美鶴への態度も一八〇度変化した。きっかけは何であれ、透の妻として認められたことは何よりもうれしいことだった。
「はじめまして、美鶴さん」
遠慮がちに声掛けてきたのは透の腹違いの弟の浬(かいり)だ。ガタイのいいスポーツマンという印象で兄とは系統が違うように思えたが、堂々落とした立ち居振る舞いやはにかんだ顔が少し透にいていた。
「はじめまして。美鶴です。今日は来てくれてありがとうございました」
「いえ。ご挨拶が遅れて申し訳ありませんでした。こんなきれいなパートナーがいる兄がうらやましいです。兄に飽きたらぜひ僕と」
浬は冗談めかしに小声で言って片目を瞑った。
――前言撤回。透さんとは全然似てないっ!
美鶴は隣にいる透の腕をそっとつかむ。
「どうした?」
「私はずっと透さんの傍にいるね」
「ああ。俺も美鶴がいない人生はもう考えられないよ。浬もいいパートナーに巡り合えるといいな」
透が言うと、浬は「はいはい」と返事をして席へ戻っていく。その背中を見ながら透は小さくため気を付いた。
「またライバルが増えたな。今日の美鶴がきれいすぎるせいかもしれないが」
「透さんだって素敵です。私なんて院内中の女性がライバルなんだから……知ってる?」
看護師も事務員もみんな透のことを素敵だという。「バツイチでも全然いい」と聞こえるように言われることだって少なくない。
「知ってるさ。でも安心して? 俺には美鶴以外恋愛対象にはなりえない。以前藤島が話していただろう? 俺がのろけるのを見る日が来るなんて思わなかった、って」
「確か透さんが途中で話を遮って最後まで聞けなかったあの話?」
「そうだ」と透はゆっくりと頷く。そして言いにくそうに軽く咳払いする。
「俺の初恋の相手は美鶴なんだ」
「噓でしょ?」
美鶴は眼を見開いた。
「本当だよ。勉強と仕事は好きだった。でも今まで女性を好きになる意味は分からなかったんだ」
まったく女性と付き合いがなかったということではなさそうだ。それでも心から愛せる人がいなかったということなのだろう。
「そんな俺を変えたのは美鶴だよ。だから後にも先にも好きになるのは君だけだ」
透のほほは赤く染まっていた。お酒のせいではなさそうだ。愛おしさがあふれて美鶴はこれ以上ない幸せをかみしめた。


