「ごめんなさい。やっぱり東京には行けません」
病室で美鶴が頭を下げると透は「わかった」と頷いた。突き放されたみたいで胸が痛んだ。だからなのか言い訳みたいな言葉がぽろぽろとこぼれてくる。
「考えてみたら着ていく服もないし、メイクだってしたこともないし髪だってしばらく切ってなくて……」
「本当の理由はそうじゃないんだろう?」
美鶴は黙って頷いた。
「なんでもお見通しなんですね。……酪農家って休みがないんですよね。うちは家族経営で人を雇う余裕もないから私がいないと困るって母が。だけど、本当は行きたかったんです。志木さんと、東京へ行きたかった」
そう口にしたら涙がこぼれた。子供のようだと思われるかもしれないと思ったが止められなかった。
「君は家族思いのいい子だね。でも、そうやって家に囚われて生きて幸せになれるだろうか。いろいろなものを手放して諦めて、気づいたら心まで空っぽになっていくんだよ。そうならないためにも君は自由に生きて欲しい。そのためなら力になるよ」
「嬉しいです。でも、もう遅いです……今朝、父から見合いを勧められました」



