部長が彼になる5秒前


改めて、もう一度謝る。

「佐野は、何に対して謝ってるんだ?」
部長が少し冷たい口調で尋ねる。

「何…って、さっきの電話で、約束の時間から少しお待たせしてしまったことですが。」

「違う。」
部長は遮るように、否定する。

「…でも部長、何か、怒ってますよね?」

怒りの原因が私にあるのならば、はっきりとそれを自覚し、謝らなくては。

「佐野には……そう、見える?」

急に、くだけた口調でそう聞き返す部長は、私の目をじっと見つめる。その視線に耐えられなくなり、仕方なく目を伏せた私は、

「…そう見えます。」
と正直に答えた。

「ヘぇ……。」
と部長は相槌を打ったきり、黙々と食べては飲んでいる。