「朱里。」
もう一度、私を呼ぶ部長の表情は、少し曇っている。
「お待たせしてすみません。急な電話で…」
そういえば、橘は結局どうして連絡してきたんだろう…。
「電話の相手は、橘か?」
「はい、部長もご存知なんですよね。」
「昨年度まで同じ営業部だったからな。」
少し速い口調でそう言って、部長はホテルの出口へ向かう。
なんだろう……部長を何か怒らせてしまったのだろうか。
ホテルを出てついて行った先には、落ち着いた雰囲気のある個室居酒屋だった。
そこへ到着するまでの間、部長は何故か一言も喋らず、私の方も見ようともしない。

