部長が彼になる5秒前


「……分かり、ました。

私でよければ、"仮" 恋人にして下さい。」


「契約成立だな。」


こうなったら、仕事の道具だと思うくらい、部長から色んなネタを盗んでやる。

拳を握りしめて、そう意気込んでいると、
部長が降りる駅に着いたようだ。


「じゃあ、おやすみ ……朱里。」



そう言って、私の手にそっと触れて、

部長は電車から降りた。



一瞬の出来事に固まる。

「朱里」って呼ばれた……


まず部長が下の名前を、知ってくれていただけで、十分嬉しいのに、それを呼ばれるとこんなに嬉しいんだと、自分でも驚く。