部長が彼になる5秒前


「しないって!同期として応援してるから。

じゃあ私、反対のホームだから、ここで…」


"バイバイ"と、振ろうとした手を掴まれる。


私の手を掴んだ橘は、不敵に笑った。


「佐野、もし本当に恋愛を思い出したいなら、

その時は、誰かに聞いたっていいんだ。」


笑っている割に、橘は真剣な声でそう告げた。

言われたことの意味を考えている内に、

橘はそっと手を離し、
電車に乗り込んでいった。



呆然としながら、夜の春風を浴びる。


しばらく掴まれた手を見つめた後、

私も自身の向かう先のホームへ歩き始めた。