部長が彼になる5秒前


「あるっていうか、好きな奴くらいはいる。」

「橘、乗ってるよ、絢の誘導に。」

「ゔっ!? だから言わねぇって。」

それから、橘はあっさり他の同期の輪に
入っていってしまった。


いるんだ。橘にも、好きな人。
今まで、意外にもその類の話はしていなかったことに気付く。


「好きな人がいるってどんな感じ?」

飲み会の帰り道、同じ方面へと歩く橘に、
思わずそう尋ねた。


「さぁな、実れば嬉しいんだろうけど。」

ってことは、橘も片思いなのだろうか。
同期として、その恋はぜひ応援したい。

「うーん、私にはよく分からないけど、
頑張ってね。あと実ったら教えて!」


「お前、言ったらネタにするつもりだろ。」

そう言う橘の眉間にシワが寄っている。