部長が彼になる5秒前


「ただVenus、俺は今より
もっと見たい記事がある。」

私が読んでいたバックナンバーに、
視線を落としつつ、橘はそう零した。


「見たい記事……?」


「俺も社内で毎月目を通してるけど、
恋愛系の記事 減っただろ。」


「ゔ、、、。」


そう言われてみればそうだ。
橘は、分かりきったような顔で続けた。

「佐野が頑張ってるのも、皆分かってる。
ただ、まだきっと出来るんだって。」


恋愛系の記事は、私がVenus制作の中心に近づくにつれ、減っている。

自身の恋愛経験が浅い分、
取り上げる自信がなかったのだ。


橘とは、飲み会でそれなりに色んな話をしていたので、仕事一筋の私の事も、よく知っている。だからこその発言だった。