部長が彼になる5秒前


十分だと思いながらも、
そんな事を言われてしまえば、理性は限界で。


「……じゃあ、朱里からキスしてくれる?」

気付けば、欲張りな願いをしていた。

それを聞いた彼女は、頰を染めて俯いた。
やはり照れ屋な彼女に、こんな事を頼むんじゃなかったと、後悔の念が押し寄せる。

「ごめん、やっぱり今の っ……!」

次の瞬間。
"忘れて" と言おうとした自身の口は、朱里の口によって塞がれていた。

その状況を把握した時には、既に朱里の唇は離れていて、目の前には上目遣いでこちらを伺う彼女がいた。

「ちゃんと…お返し、できてますか?」

不安そうに伺う彼女の瞳に、思わず吸い込まれそうになる。

離された唇の熱は、冷めることを知らない。


「駄目。まだ足りない。」