「来週のバレンタイン、おれのビターなやつでよろしく」
「…富永に作る予定ないし」

なんていつもの軽口を叩き合った金曜日。
はは、と笑って富永は去ってしまったけど。

「作っちゃったよ…」

2月13日の日曜日。しっかり箱にまで入れてしまったチョコレートを見ているとどうにも気恥ずかしくて蓋をした。

「なんで作る予定ないとか言ったんだ私のバカ…」

泣いても笑っても、今日寝て明日起きればバレンタインはやってくる。

「なんだよ冗談に決まってんじゃん」
なんて笑われるかもしれない。

「え、まじで作ったの?」
なんて本気で引かれたら立ち直れない。

でも、好きな人からリクエストされたら作ってしまうのが恋する乙女心じゃないですか。

結局、まともに睡眠も取れずに朝になってしまった。
マネージャーの伝統となっている陸上部の部員用チョコレートの紙袋に小さな紙袋を忍び込ませるように入れた。部員用のチョコのおかげで目眩ましにはなるけれど。

「そういう問題じゃないよねー」

玄関で靴を履いて改めて右手にぶら下がるチョコレートを見る。
これを渡すってことは告白と一緒だ。そう思うと気が重くなるが行くしかない。

誰かが言っていた。
バレンタインは決戦であると。