「...なに?」
「口、開けて」
「はぁ?」

あたしの口の前に差し出す意味がわからん。
あたしが作ったチョコで、あたしが高成にあげたチョコ。
それをあたしに「口開けて」って“食え”って言うてるわけで、それって“いらん”ってこと?

「どうした?」

どうした?って、どうもこうも高成やん。
あたしじゃなくて高成やん。

“俺だけのはないの?”とか言いながら、受け取ったらいらんねんやん。

「涼、どうした?」

急に俯いて、無言になるあたしに心配そうな声。
手に持ったままのチョコは多分、手の温もりで溶けはじめてるに違いない。

「涼?」
「それ」
「それ?」
「チョコとか」
「これ?」
「いらんかったら捨てていいから」

甘いのは好きって聞いてたから遠慮なく作ったけど、甘いもんとかもうええって、て思ってたかもしれん。それに気付かんくて高成の言葉に浮かれて渡したけど、そういうの全然考えてなかった。

「なに、泣いてんの」

俯いてるから表情は見れんけど高成が苦笑しながら、あたしの目元から頬にかけて触れるから、ほんまに泣いてるんやとわかった。

別に泣くつもりなかったけど、なんか泣けてきた。
バレンタインデーに、しかも高成の傍で泣くとか、あたし最悪。

「また何考えてんのかわかんないけど」

あま、と言う声が聞こえたかと思ったら、両頬を掴まれてぐいっと上を向かされる。
目が合った、と思ったら重なる唇。

「んんっ?!」

口の中に広がる甘い味。
あたしが今日作ったチョコレートの味がする。
てか、そのチョコが小さくなって、あたしの口の中にある。

泣いてたあたしの涙はピタリと止まるし、今のキスで呆然とするまま。

「た、高成!」
「なに?」

なに?って、ニッコリ笑ってるけど、このチョコって高成の…!!
高成はもう一つ手にとって、今度は自分の口の中に放り込んだ。

「美味い」と言って、次々と口の中に入れる。
数分後には全部なくなってしまった。

それはそれで嬉しい。
自分が作ったモノを美味しいって言うてくれることほど嬉しいことはない。
でも、“高成のため”に作ったのに、“一緒に”って言われたら、それはそれで複雑。

「もう・・・」
「なに、怒ってるの?」

そうやってまた首を傾げる。
そうされると強く言えんくなるってわかっててそうやってる、確信犯。

別に怒ってない。
怒ってるんじゃなくて、呆れてる。
ちょっとでも不安になったあたしを完全に無視して、自分のしたいようにする。
それに流されるあたしもあたしやけど、それも惚れたモン負けってことでしょうがない。

隣の高成はあたしの肩に手を回して、‘よしよし’と頭を撫で続けてる。
隠してるつもりやろうけど、笑い声を隠しきれてないし。

「…なに笑ってんのよ」
「いや」
「人が不安になってんのに、勝手に好き放題して」

一瞬、頭を撫でる手が止まったけど、再び繰り返す。