車を15分ほど走らせると市街地から住宅街に辿り着いた。

どこに連れて行かれるのかソワソワしてると一軒の駐車場に車を止め、「降りろ」と言う。

駐車場は4台ほど置けるようにはなってても見た目は普通の家。
店の看板らしいものは無いし、だからといって表札があるわけでもない。
店長の家?と一瞬思ったけど、あたしの為にわざわざ腕を振るってくれるほど親しくないからそれはありえんと思った。

店長の後ろを付いて玄関のドアを開けると一人のボーイさんが表れた。

「いらっしゃいませ、中塚様。お待ちしておりました」

白いシャツに黒のパンツに黒のエプロン。
テレビで見るようなボーイさんが出てきて、ここが立派なお店であると思いしらされる。

てか、店長って“中塚”って名前なん初めて知った。
高成も教えてくれんかったから知らんくて当然やけど聞かんかったあたしも悪いけど。

店内はたくさんの間接証明で比較的明るくて、OLから年配ご夫婦までおって、隠れ家的レストランみたい。

ボーイさんがひいてくれた椅子の前に立つとタイミングよく掛けさせてくれる。
普通のレストランじゃこんなことしてくれん。

目の前に座る店長は普通の顔してメニューを10秒ほど眺めると片手でメニューを閉じてボーイさんを呼び、「いつもので」と一言告げるとボーイさんは「はい、かしこまりました」と頭を下げて奥に入っていった。

メニューに関しては見せてももらえんかったから値段はわからん。
でもあたしみたいな若造が来るべき場所じゃないくらいはわかった。

完全に浮いてる。
多少シフォン系ではあるもののスーツの店長には釣り合ってないし他のお客さんのように優雅な空気は出せん。

緊張で俯いたまま固まるしかないあたしを助けたのはもちろん店長で、「イタリアン好き?」の言葉に「大好き」と答えると、フッと微笑んでくれて、ちょっと和んだ。

店長には色んな顔がある。
今みたいに和やかな雰囲気出したり、店での怠そうな感じやったり、入ってきた時の“中塚様”ってゆう本来の店長やったり色んな顔があって、お子様のあたしにちゃんと合わせてくれてるんやなって思った。

「なに?」

あんまりあたしが見つめるからやろうか、眉間にシワを寄せて怪訝な顔をする。

「いや、彼女いてんのかなぁ?と思って」

自分がお子様やなって実感してた、とは恥かしくて言えんから嘘付いた。けど、気になることではあったし、これについては嘘じゃない。

「あー…、飯作ってくれる女ならいるけど」

飯作ってくれる女ならいるけど?

「けど、彼女じゃないんですか?」

そう聞くと黙るから、彼女なんやな、と確信した。

言いたくない理由は多分……年下やから?
それもかなり歳の離れた。
まぁ、だからって人を好きになるのに年齢差って関係ないし、店長が誰と付き合っててもあたしには関係ないし。

でも人に“彼女です”って紹介してもらわれへんのは寂しいなぁ、と思ってみたり。

「お前と同じ歳の」
「え、店長いくつ?」
「32」
「32?!」
「なんだよ」
「いや、見た目…じゃなくて、なんていうか」
「言わなくてもわかる」

漫画ならエヘッとでも言いそうな顔で店長を見ると溜息を吐かれた。

老けてるって言いたいんじゃない。
むしろ、その逆で32には見えん。
初めて会った時はもっと歳くってると思ってたけど、髭も髪も整えたら10歳くらい若返って28歳くらいかと思ってた。

あたしの発言にいい気になるはずもなく、頬杖ついて眉を寄せる店長に申し訳なく思いつつもまじまじと顔を眺めてしまう。

「なんだよ」

いや別に、と言おうとしたら「お待たせ致しました」とボーイさんが前菜を持ってきてくれたことで遮られた。