前は気付かんかったけど綺麗な顔をしてる。
大きな瞳に二重瞼で通った鼻筋。

高成と一緒におるときとはまた違った緊張がきて急に焦る。
前の絡みにくい空気とは違う緊張の空気に前回と同じく無言を続けることになってしまった。

「高成は?」

5分程の沈黙を経ての問い掛けに飛び上がるくらい驚いたあたしに店長は真顔やった。

「次のアルバム制作、て言うてました」
「連絡は?」
「来ます」
「どれくらい?」
「夜に電話が来るくらい」

根掘り葉掘り聞き出した上に忙しいんだな、と笑う店長を怪訝に思った。

腕を組んで少し考えたあと、誰か来たら呼んで、とだけ言い残して奥へ消えて行った。
奥は外観通り二階建てらしく店長が階段を上る音が聞こえた。

あたし一人になった店内は相変わらずジャズが流れてて、外が暗くなると同時に薄暗い部屋に少しの間接証明でカジュアルバーみたいな雰囲気が出てた。

それにしても圭ちゃんの買い物は長い。
一番端って言うたのに1時間経っても来る気配がない。
不安になって携帯を開くとメールが一件。

《謙吾が近くに来てるらしいから合流する!勝手に帰ってごめん》

圭ちゃんからのメール。
自由奔放なんはいい。
でも友達を放って帰るってゆうのはどうなん?て思ったけど、圭ちゃんやからしょうがない。
それを許してしまうあたしも甘いんやろう。

そのメールには《わかった。今日はありがとうね》とだけ返して、店長が戻ってきたら帰ろうと決めて、一度も見たことないCD達を見て回ることにした。

「あ、これ欲しい」

好きなアーティスト限定やけど洋楽を聴くあたしが目に留めたのはセカンドアルバムまで購入したアーティストのニューアルバムで買おうと思ってたけど金欠続きで買ってなかったヤツやった。
傷物で少し値段が下がってて今の財布と相談しても帰りの電車賃を残して買える値段やった。

「それ、やる」

耳元で声が聞こえて勢いよく振り返るとあまりの至近距離にびっくりして後退しようとしたらワゴンの足に躓きそうになって支えられた。
ついでに力が入りすぎてCDを割りそうにもなった。

「どんくせぇな」

そう笑う店長は濃紺のスーツ姿で、一瞬誰かわからんかった。

「てん」
「お前、暇でしょ?飯付き合え」

暇と決め付けられ、買い物袋はあっちゅう間に取り上げられ、早々と店じまいした明かりの消えた店内にひとり残されたこの状況。

「何してんだ。早く来い」

半ば強制的に連行されるあたしは店の隣の駐車場に停めてある高級車に向かう店長にまた驚かされる。

「ベンツ……?」

何の躊躇もなく車のロックを開けてるあたり本人の所有車ってことがわかった。

あたしの購入品達は後部席に丁寧の文字のカケラもないほど投げるように入れられた。
でも、そのまま助手席のドアを開けてあたしに視線を向けた。

「高級車でビビるだろうが遠慮すんな」

車から数歩離れて立ってるあたしに向けての嫌味って気付いたからムカついた。
ムカついてるあたしに気付いてる店長は馬鹿にした笑顔で見てる。
ドアの前まで来て立ち止まり一言言ってやった。

「ちゃんと家まで送って下さいね」

ふふん、と勝ち誇った目で見てやると、また笑われた。

「これじゃ高成が苦労するわけだわ」

背中を軽く押されて乗るように促され、座るとドアを閉めて車の前を通って運転席に回ってきた。

「どういう意味ですか?」

高成が苦労するとか、その苦笑いとか、意味がわからん。
高成が苦労するって、この場におらんのに何が苦労?
確かに“行くな”って言われた上での乗車なのはわかってるけど、高成も知ってる人で別に取って食われるわけじゃないし、そのつもりもないやろうし。

「いずれ分かる。好き嫌いある?」

顔も表情も変えず淡々と喋って機械のように運転する。
車のスピードが変わらんのと返事を待たずに大通りから道を逸れたところから場所決まってんじゃん、と思った。
あたしに聞いたところで行き先は変わらん。
だから、ないです、と答えた。

“いずれ分かる”の意味を考えたけど、やっぱりわからんくて助手席から店長を見つめてみたけど、「男前すぎて見惚れるか」と、からかわれて考えるのをやめた。