駅までの道のりは、ほんまにあっという間で駅に近づくたびに「もうちょっと遠かったら」って思った。

新幹線の時間にはギリギリで最後の挨拶もあんまりゆっくり出来んくて陽夏ちゃんはずっとあたしに抱き着いてた。

「離れるの、寂しいです」
「うん」
「すっごく楽しかったんです」
「うん、あたしも」
「メールも電話もします」
「うん、あたしもする」
「個人的に会いにきていいですか?」

「今度はあたしが行くから」
「じゃあ待ってます!」

うん、と答える前に引きはがされたあたし達。
それはもちろん京平によるもので額には青筋立てるくらい怒りが表れてた。

それでも腕の中で子供のようにシクシク泣く陽夏ちゃんには怒れんくて溜息吐きながら頭を撫でてた。

「ほんと、どっちが彼氏だよ」

背後から呆れた声が聞こえる。
さっきも言うてたよ、とはさすがに言えんくて、京平の傍で泣いてる陽夏ちゃんに視線を移す。

「コイツがいたら俺が離れられねぇわ」

そう言うとあたしの視線は遮られて高成の匂いに包まれて抱きしめられたことに気付いた。

恥ずかしくて、みんなの前やからって言おうとしたけど、高成とも暫く会えんくなるって思ったら自分からも抱きしめてた。

今日みたいに起きたら高成がいてることはない。
腕枕をしてくれて髪を撫でてくれることも、「おはよう」って笑いかけてくれることも、抱きしめてくれることも、キスすることも出来んくなる。

「...寂しい」

あたしの素直な気持ち。
キュゥって胸が締め付けられる。

近くにおれば不安はないのに、遠くにいくってなればなるほど離したくなくなる。
ずっと手を繋いでたいし、抱きしめててほしい。

そう思ってしまうんは我が儘やけど、あたしにも高成にも生活があって、そういうわけにはいかん。
わかってるけど、離れることが寂しい。


色々あったけど一番近くにおってくれたのは高成。
普段傍におられへん分を一気に埋めたあたしは近くにいすぎて別れが辛くなってる。

「あー…、離したくねぇ」

その言葉に顔を上げると眉が下がってて困ったように笑ってた。

「また、会いに来るよ」
「ううん、今度はあたしが会いに行く」
「サラに?」

いたずらに笑う高成に思わず苦笑した。
もちろんイヤミがこもってるのはわかってる。

「高成に会いに、決まってるでしょ」

その言葉に当たり前だ、と言ってもう一度きつく抱きしめられる。
この期に及んで厚かましいかもしれん。
自分で撒いた種も棚に上げてでも強く思うことがある。

これは普通であってほしい。
別れを惜しむ恋人達には必ず思う感情であってほしいと願う。

あたしじゃないみたいで少し恥ずかしい。
でも離れてしまうなら、暫く会えんなら許されるでしょう?

“もっと近くに感じたい”って思うのはあたしだけじゃないやろう?

自分から言うのは恥ずかしい。
でも言わんと伝わらんことをあたしは知ってる。
高成も同じ気持ちでおってくれたら……、そう思って視線を上げると苦笑した。

「テレパシー?」

真剣な瞳で見つめられて、高成の親指があたしの下唇を撫でる。
あたしと同じ気持ちであることが嬉しい。

「キス」
「ここで?!」
「他にどこですんだよ」
「人いっぱいおるやんか!」

ここは駅。
出入口だけあって人の多さは半端ない。

見渡せばメンバーはすでにいてなかったけど抱き合うあたし達を興味の目で見る人は多い。

「多いから逆にいいんじゃねえの?」

そう言って人通りの多いコンコースに置かれた植物の陰になる場所に移動すると壁と高成に挟まれる。
両手を壁について左右逃げ場を失ったあたしに高成は近付く。

あたしと高成の距離が近くなると人がいっぱいいてることなんか忘れて雑踏なんか消えて当たり前のように目を閉じると唇に触れた。
触れるだけのキス、から一度離れて微笑みあう。
そして、もう一度目を閉じて数回軽くキスしてからは本能のままに。

お互いを確かめ合うように深く求めあう。
下にぶら下げてた手も高成の腕、それから肩、そして首に移動して、さらに深く感じあう。

植物の陰なんか隠れてるようで全く隠れてないのわかってるのに今はそんなことどうでもよくて、ただ高成を感じてた。

寂しさから溢れる涙も耐え切れず流れてた。
離した唇からはまだ高成の熱が残ってて熱い。

「次に会う時は今以上に感じさせろよ」

誰かのせいで全然足りない、と言われて申し訳なさと恥ずかしさで俯くと頬を撫でるように元に戻される。

「あーもう!!」

なに?!と高成を見ると後ろのポケットから携帯を取り出して、鳴り続けてる携帯を見ずにあたしを通り越したある場所を睨んでる。
まさかと思って振り返ろうとしたら高成の手によって止められた。

「涼は見なくていい。後でシメる」

その言葉に悟さんかな?と思った。
それでも鳴り続けてる携帯はメンバーの催促の知らせに違いない。