夢物語【完】


そんな事を考えながらニヤニヤしている時やった。
隣で高成が誰かからの電話で少し話したあと溜息混じりに言った。

「涼介がキレてる」

その一言で全員の表情が同じになり、何も言わずに歩き始めた。
どうやら電話の相手はギターのRYOSUKEらしく、1人で観光していた彼は先に予定していた店で待っていたらしい。
予定時間を大幅に過ぎても来ないあたし達に痺れを切らして電話をしてきた、という話。
高成いわく、キレると面倒らしい。

「俺は涼介がキレるのを見たくない」

隣でボソッと呟いたのをあたしは聞き逃さんかった。でもツッコまんかった。
その理由をある意味素晴らしい形で知ってしまうことなど予想していなかったから。

「あ!車!!」

ここ数分で色んな話を聞いて脳内で記憶整理するのにいっぱいいっぱいで忘れてたけど、それ以前からずっと何か忘れてるような気がしてた。
度々、車取りに行かな…って話と話の間の沈黙で思い出してたけど、KYOHEIの彼女のこととか、SATORUの話とか、高成のこととか、色々考えてたら忘れてた。
今度こそ忘れんように!って口に出したら大声になった。

「あ…おっきい声出して、ごめんなさい」

高成もびっくりして見てたけど、同じように忘れてたって顔をして足を止めた。

「車取ってくるから先行ってて」

高成がそう言って今来た道を戻ろうとすると、「涼介、待ってるけど?」とSATORUさんがそう言って、「先に食ってて」と、高成が答えた。
KYOHEIはちらっとこっちを見ると空いてる手をあげるだけで何も言わず足を止めることはなかった。
付き合いが長くなると言葉なんていらんくなるんかな?って、ちょっと羨ましく思った。

あたしには幼なじみも高成達ほど付き合いの長い友達もおらんから、その感覚がわからへん。
なんかいいなぁって思う。

「なに?」

何か感じたらしい高成が振り向いた。
そんな些細な問い掛けも嬉しい。

「幼なじみっていいなぁって思って」

そう笑うと高成は苦笑した。

「見透かされんだよ。隠し事一つできない」
「それって困るん?」
「涼とのことも、すぐバレた」

溜息混じりにそう言う。
バレたとか言うから、ちょっとした意地悪を言ってみたくなった。
別に紹介してくれへんとか、そういう意味じゃない。
高成を信用してるし、ほんのちょっと意地悪してみたくなっただけ。

「教えたくなかったってこと?」

そう聞くと高成は困ったようにあたしを見た。
どうやら理由があるらしい。まぁ、あたしを隠したくなる理由は言われなくてもわかってる。
こんなんやし、恥ずかしいよなーってあたし自身でも申し訳なく思う。

別に気落ちしたりせんけど、直接口にされると凹むなーとか思いながら高成を見上げると、いつから見ていたのか目が合った。

「どうしたん?」

別に気にしてないんやけどなぁって顔で高成を見た。
どこか不安げで納得いかないという顔で見つめられるから首を傾げるしかなかった。

「なんでもない」

呆れられたのかも、という不安の波が押し寄せてきたけど、握り返す手が強くなったから、どうでもええやってなった。

あたしは単純。だから、高成は苦労せん。
あたしが高成に惚れてる間は。
高成があたしをどのくらい好きかなんて聞かんとわからん。
わからんけど、今はこの手の温もりを信じようって心から思う。

あの子が言うように浮かれてる場合じゃないかもしれん。そうかもしれんけど、今は、今だけは幸せな気持ちだけに身を委ねた。