「はい」
「お、なんや?」
「なんやじゃないよ。今日はバレンタインデーだから」

ギターをいじる涼介くんの背後から差し出した箱。
自分で箱を買ってきて綺麗に包装もした。
包装の仕方は昨日の夜にママに教えてもらった。

「毎年ありがとな」

毎年渡してるチョコ。
誰に言われたでもなく、あたしの意思で涼介くんに渡すようになってから早数年。
毎年嬉しそうに貰ってくれて、必ずすぐ開けて食べてくれる。

「うまい。年々上達するな」
「チョコ溶かして固めただけだよ」
「ちゃう。そこちゃう」

なにが違うのか首を傾げると「包装が豪華になってたり入れもんが変わってる。力の入れ方が女子になってきた」と真剣な顔で答えた。

「そりゃ、あたしも中学生だし。見栄えだって気にするよ」

涼介くんは「俺相手に?」と笑っていたけど、涼介くんだからっていう答えには至らないらしい。

涼介くんに渡す為にバレンタインデーが近づいたらママにお菓子作りを教えてもらう。
渡すのはチョコだけだけど、家で出すお菓子はあたしが作ったものでみんなが食べられるようにしてるから、涼介くんの為っていうことは誰にも教えていない。

パパにだって包装していない。
涼介くんだけに渡す特別なチョコ。

「紗生、お前彼氏は?」

急な質問に「いないよ」と答えると疑いの目。
本当だって、と言いながら隣に座ると「勿体ないなぁ」と言ってくれた。

「気付かん男ばっかりか」
「いいの、あたしはこのままで」

強引に話を持っていくと「なんで?」と不思議そうに聞いてくる。

「だってわかんないもん。恋とか愛とか。ママとパパ見てればわかるけど、恋愛って好きだけじゃないじゃん。まだあたしには難しいもん」

恋愛って大変なんだなって漫画だったり小説だったり人の話だったり…情報によれば“好き”だけじゃ出来ないってわかった。

まだ恋はわからないし、何年か前は涼介くんが好きだと思ったけど、それは違うってわかった。
今だって特別にチョコをあげたりするけど、これはまた違う。

好きだけど、その好きじゃない。
ギリじゃないけど本命でもない、そんな感じ。

結構あたしの中の涼介くんは複雑。
モテるはずなのに結婚しない理由を考えるとあたしが相手してあげなきゃ、と思う。

「若いうちは恋してなんぼやねん。難しいって頭で考える前に自分の気持ちに正直に動け。んなら、なるようになんねん」

あたしがあげたチョコを口に入れながら言う。

確かにそうかもしれない。
でも今は本当に恋はまだしたくない。

もう少し涼介くんと並びたい。
でもその気持ちは涼介くんには内緒。

「じゃあ、あたしに好きな人が出来たら相談にのってね」
「嫌や!」
「なんでよ」
「ちっこい頃から可愛がってきたお前の恋愛相談になんで付き合わなあかんねん」

やめてくれ、と頭を抱える姿を可愛いと思う間はきっと恋愛なんて出来ない。
まだ当分こうして二人座ってどうでもいい話をするんだろうなぁ、と思いながら美味しそうに食べてくれる涼介くんの横顔を見ていた。
 



…END…