「千秋」

二階から降りてきたちーにいを呼んだパパはバッグの中にあるいつも持ち歩いてるポーチを取るように言って、それを持ってきたちーにいに小さなケースを渡した。

「なにコレ」
「プレゼントー」

ちーにいがケースを開けると目を見開き一瞬にして笑顔になった。

「これ、くれんの?」
「無くしたってへこんでたろ。それで練習しろ」

やったー!と声を出して喜ぶちーにい。
それを見たママが笑顔になる。
パパはなんてない顔してるけど、絶対嬉しいに違いない。

「あたしにはないの?」

帰ってきてくれたことだけで全然嬉しいんだけど、ちょっとおねだりをしてみた。
するとパパは「可愛いな、お前はー」と言ってバッグからまたケースを取り出した。

「はい、どーぞ」

さっきのちーにいがもらってたのより大きい。
開けるとそこにはネックレス。
しかもピックが付いた革のネックレス。

「お前が欲しいっつーから貰ってきた」

そこには涼介くんのサインが入っていて、“Love,saki”と入っている。

「紗生はお前の女じゃないぞ!って言ったら“涼も同じやつ持ってるぞ”って言われて怒れなかった」

ママがキッチンで小さく笑ったのをあたしは聞き逃さなかったけど、パパは相当嫌みたい。
そんなパパを放ってそのネックレスをつけた。

前からお願いしていた涼介くんのサイン入りピック。
全員分は貰えないし、京平パパに言うのはなんだか怖いし祐介パパは絶対くれない。
でもあたしが一番付けたい人は誰だろうって考えた時に浮かんだのはパパと涼介くんだった。

究極の選択だったけど、あたしは涼介くんを選んだ。

頼んだ時にパパは複雑な顔をしたけど、あたしが欲しい!って言ったら大抵の物はくれちゃうから絶対もらえるって確信があった。

「お前、涼介んとこに嫁にいったりするなよ」

それだけはマジ勘弁だわ、と頭を抱えるパパを放ってママの携帯を借りて涼介くんにメールを打った。

【ピックありがとう!一生大切にするね  紗生】

その後すぐにメールが返ってきて【おーう。俺のことも大事にしてくれよ】とあった。

涼介くんは本当バカだと思う。
パパとママに大事にされてるくせにあたし達、子供にまでそんなことを言っちゃう。
パパとママが大事にしてる人をあたし達が大切にしないわけがないのに。

涼介くんの嫁になったりはしないけど、パパとママがおじいちゃんおばあちゃんになって涼介くんもそうなったら一緒に面倒みてあげようとは思う。

「紗生、涼介のところには嫁に行かないって約束しろ」

相当心配なのかパパが血相変えて言うから笑えた。

「行かないよ。涼介くん大好きだけど結婚はしないから」

疑いの目を向けるけどママは興味深そうにあたしの言葉の続きを待ってた。

「だってママのことが好きな涼介くんがあたしを好きになってくれるわけないじゃん」

だからナイナイ、と言いながら自分の部屋へ向かう。
背後からは「どういうこと?」とパパの不機嫌な声が聞こえたけど、無視した。

こういう刺激でパパとママがもっと連絡を取り合うようないつも仲良し夫婦になればいいと思った。