「紗生」
「へ?!」

ちーにいの後ろ姿を見ていたから気付かなかったけど、一階からパパがあたしを見ていて固まった。

今のを見てました、なんて言えない。
オロオロするあたしに「ただいま」と言うパパの優しい顔を見ると自然に立ち上がり、パパの元へ歩いてた。

「おかえりなさい」

今までの光景を思い出してなんだかドキドキする。
憧れていた光景だったけど、想像と生で見るのとはやっぱり違う。
自分の両親のラブラブシーンなんて見るもんじゃない…そう感じてる。
ちーにいはよく真顔で見ていられるな、と思った。

リビングのソファーに座るとキッチンではまた慌ただしくママが夕飯の支度をしてる。
パパにママを悪く言ったのを怒られるんじゃないかって少しドキドキしてる。

「見てたんだろ?」
「な、なにを…?」
「今の、全部」

今までの光景がまたフラッシュバックして赤面しながら口をパクパクしてる自分がわかる。
パパがあまりに堂々としてるもんだから見てたって言う方が恥ずかしい。
きっとちーにいや祐介パパが言ってるのはこういうことに違いない。

「電話でも言ったけど、俺が仕事してると家のことを忘れてしまうのは昔からなんだ。だから涼は連絡してこないし、それで紗生に心配かけたのは悪いと思ってる。でもそれ以外では家族が大切だし、紗生のことも考えるし、涼を愛してる」

“愛してる”とかサラッと言ってのけるパパのハートを尊敬する。
自分の親だけど恥ずかしさで、もうわかったよ!って言いたくなる。

「俺も涼も悪い言い方だけど互いに放ったらかしに出来るのは信頼してるからだよ。それは慧斗んとこも櫻んとこも一緒だと思うぞ?」

パパの言葉に何も言えなくて俯いてしまう。
慧ちゃんとこも櫻のとこもパパとママの会話を見ていて仲良しだって感じてた。
羨ましいなってずっと思ってた。

それなのにうちの家は全然連絡取らないし互いのこと全然把握してないのに、これで夫婦って言うの?!ってずっと思ってた。
でも今日のパパとママを見て、ちーにいの冷静な顔を見て、パパの“信頼してる”という言葉を聞いて、あたしの思ってたことって間違ってたのかな、と思う。

誰も嫌い者同士で結婚したりしないし、ましてやそんな人の子供を産んだりしない。
それでも子供を不安にさせたり疑わせたりするのは違うんじゃないの?って思ってた。

「そんなに疑うならもう一回見せようか?」
「なにを?」
「俺と涼の、」
「高成!!」

キッチンにいたママがパパの名前を真っ赤な顔して呼ぶ。
そんなママを見て「嘘に決まってるだろ」と愛おしそうに笑うパパを見て、あたしも自然に笑えた。

パパの隣に座ってくっつくとパパが抱きしめてくれて頭にキスを落としてくれる。
これは生まれた時からパパがずっとしてくれてること。

慧ちゃんや櫻に話した時は「外国人みたーい!」って驚かれたから、うちのパパはアメリカンスタイルなんだなって思った。
でもそうしてくれるだけで、あたしへの愛を感じることが出来る。