「紗生?」
ちーにいが入ってきてあたしの足元に座る。
いつも何か勘づいたのかいいタイミングで無断で入ってくる。
別に嫌じゃないけど。
「どうした?」
「パパ、今日帰ってくるんだって」
「そうなんだ」
「嬉しいよね?」
「うん」
ちーにいもママと同じであっさりした返事。
どっちかっていうとちーにいの性格はママに似ていてサバサバして淡々としてる。
あたしみたいにパパが帰ってくることくらいでテンションあげたりしない。
まぁ、中3の男の子がそんな風でも嫌だけど。
「なんでふてくされてんの」
「・・・」
「あー、わかった。また涼のことで怒ってんだ」
なるほどね、と納得したみたいで、ん〜と考えて黙り込んだちーにい。
そしたら玄関の開く音が聞こえてパパが帰ってきた。
「帰ってきた!」
「だな。思ったより早かったな」
「下に降りる!」
「まー待て。そんなに心配なら見せてやるから」
そう言ったちーにいは「何があっても静かにするんだぞ」と何度も言ってから静かに階段を降りた。
あたしもその後ろに続いていく。
リビングへ続く階段の途中で見えないようにしゃがみ、パパとママの会話を盗み聞く。
「終わったん?」
「いや、紗生から電話来たから帰ってきた。とりあえず全員一時帰宅」
「まだ忙しい?」
「んー、中塚さん次第だけど長引いたら年明けまで忙しいかな」
ソファーに座るパパとキッチンに入って夕飯の準備をするママ。
慧ちゃんのところはまずハグをするって言ってたけど、そんな空気なんて一切ない。
「で、紗生は?」
「さぁ?部屋ちゃう?」
「なんか怒ってたけど」
「あたしが高成に無関心なのが嫌みたいよ」
くすくす笑うママにまたイライラする。
関西弁と標準語が飛び交う家庭に育ったあたしはみんなが言う関西弁のイントネーションに苛立つことはないって公言してたけど、今初めてその気持ちがわかった。
「俺じゃなくて涼介の相手してるって言ってた」
「今に始まったことじゃないし」
「俺が何してるか把握してないって」
「まぁね」
「俺を心配してないとか」
「で、それを聞いて高成はどう思ったわけ?」
まだくすくす笑うママにイライラしすぎて出ていこうとしたら、ちーにいに止められて「これからだから待ってろ」と言われた。



