「忙しいん?」
「んー、これから年末年始に向けて忙しいらしいんだよね」
「毎年のことやもんなあ。うちも今から頭抱えてるけど」
「しょうがないよね。こればっかりは」
「ほな年明けのまとまった休みで旅行行こうよ」
「いいねー!どこ行く?!」

せっちゃんとママも長い付き合いらしく陽夏ちゃんと同じくらい仲良し。

ママって本当に友達が多いんだなって思う。
そのおかげで、あたし達も仲良しになれたんだけど。

「ママー、今日はパパ帰ってくるの?」
「んー、多分。気になるならママの携帯からメールしてみたら?」
「祐介パパは帰ってきてるのにママはパパが帰ってくるかどうか気にならないの?」

祐介パパと一緒にいる櫻が羨ましくて、2日ほど見てないパパの様子をママに聞いてみたのに、ママは全然気にしてない。
あたしはパパが帰ってこないと心配になるのにママはそうじゃないらしい。

「パパはうち(家)大好きやから仕事終わったら帰ってくるよ」
「いつ帰ってくるの?」
「んー、いつやろう」
「ママ!」
「ママわかれへんもーん。パパに自分で電話して聞きぃやー」

うちのママはせっちゃんと違って本当に役に立たない。
パパが今仕事で何をしてるか全然知らないし、どこにいるかも知らない。
そのくせ、ほぼ毎日家にいる涼介くんの世話はちゃんとする。
パパに優しくないママが実は嫌い。

「いいもん!パパに電話するもん」
「じゃあ、俺もー」

慧ちゃんのパパも一緒に仕事してるから、ママのバッグから携帯を取り出してパパを呼び出してコールする。
仕事でも出ますように!と思いながらかけ続けると、パパは電話に出てくれた。
後ろでママが「出たんだ」となぜか驚いていた。

≪なに?≫
「パパ?紗生!」
≪あぁ、紗生か。どうした?≫

最初の一言の「なに?」のトーンに驚いたけど、声が聞けるだけで嬉しい。
どうした?っていう優しい声。
やっぱりあたしはママよりパパが好き。

「仕事中にごめんね。ママがね、パパのこと今なにしてるか知らないって言うし、帰って来る日もわかんないっていうからムカついて紗生が電話したの」
≪ムカついて…あー、そういうことか≫
「ママひどいよ、パパ!パパの事なんにも知らないくせに涼介くんのことばっかりするんだよ」
≪あ〜、・・・ね≫
「パパ、どうしてママを怒らないの?」

あたしが尋ねるとパパは電話の向こうで≪ちょっと出る≫と言って部屋を出る音がした。

≪涼が知らないのは本当だよ≫
「どうして?」
≪どうしてって俺が言わないから≫
「言ってないの?どうして?」

せっちゃんは祐介パパのこと知ってるのに…と小さく呟く。

≪昔から仕事に集中すると全部忘れちゃうんだよ≫
「なにを?」
≪涼のこととか、他のことを≫
「ママのこと、忘れちゃうの?紗生のことも?」

あたしのパパとママは全然通じ合ってないことが悲しい。

≪忘れてないよ。忘れてないけど、仕事してる間は連絡することも忘れちゃうんだ。それを涼はよくわかってる≫
「ママはパパが心配じゃないって」

言ってないけど、ママが悪いように言ってみる。

≪だろうね。涼ならそう言うよ。だから紗生が電話してきたんだろ?≫
「うん」
≪今日は一度家に帰るよ。また話そう≫
「うん!」

嬉しさのあまり電話を切りかけて「京平くんは?!」と伝えた。

≪京平いるよ。なんで?≫
「慧ちゃんが隣にいるの。かわれる?」

あたしは慧ちゃんに電話を渡して、パパも京平くんに電話を変わってくれたらしく嬉しそうに話してた。