《ナリくんが不倫なんてするはずありません!》
「そう?」

目を閉じたあたしはどうやら寝入ったらしく、陽夏ちゃんからの電話で目を覚ました。

携帯にはメールが数件と何件かの着信。
メールはこっちに来る途中でもくれていたらしい。
今はかなり爆睡して寝てたみたいで、バイブレーションでは起きれなかった。事情を説明すると陽夏ちゃんはそう言うてくれたけど、あたしはどうも腑に落ちんくて、今朝も高成が起きたのはわかってたけど、千秋と一緒に寝てた。
いや、寝たふりして起きんかった。

どうやって高成と顔合わせたらいいんかわからんくて、寝てるあたしを絶対起こせへんことを良いことに高成が家を出るまで寝てた。
出て行くときに頭にキスされたときはさすがに目を開けそうになったけど、ぐっと堪えた。

陽夏ちゃんはあたしを励ますためにそう言ってくれてるけど、あたしはそうは思えん。
いつだって高成はあたしを愛してくれてるけど、あたしでは役不足に違いない。

高成の世界にはあたしよりも素敵な人はいっぱいおる。
それは陽夏ちゃんも世津にも当てはまることやけど、二人とはまた違う。

《そう?じゃないですよ!どうして黙って実家に帰っちゃうんですか?!ちゃんと聞かなかったんですか?》
「聞かんかったっていうか、聞けんかったっていうか?肯定されたらどんな顔したらええんかわからんし」
《肯定なんてするはずありません!!ナリくんは、》
「じゃあ、あの朝帰りと女の子の声はどう説明するよ?」
《それは…》

あたしの言葉に返答できなくなった陽夏ちゃんは電話の向こうで、あたしにわからんように小さくすすり泣いてくれる。
わからんようにって言うてもバレバレなんやけど、その気持ちだけでちょっとだけ気持ちが軽くなった。

軽くなったっていうのは言い過ぎかもしれんけど、それなりに浮上した気がする。

「陽夏ちゃん?」
《……はい》

涙のせいで鼻声になった陽夏ちゃんは鼻をすすりながら返事をくれる。
そんな陽夏ちゃんにあたしは笑みを零しながら「あんな、」と続けた。

「実はあたし高成が浮気しようが何しようが口出しする気はないねん」

そこで一度言葉を止めると電話の向こうから《えぇ?!》という声が聞こえた。
でもそれには答えずあたしは続けた。

「ん~、なんていうか。勢いで飛び出してきたものの、冷静になってみたら考えるんもアホらしなってきてさ。だって、いつもあたしは高成の帰り待てずに寝てるけど、もしかしたら今回だけじゃなくて、いつもそうかもしれへんやん?ま、ただ単に眠くて風呂入っただけかもしれんし?

女の子の声に関しては、あたしには言うてないけど、あの高成やし実は…ってありそうやん?それがあってもなくても、結局あたしは高成が好きやし、今となっては高成の奥さんでわかりやすく言えば“正室”やん?別に不安がることもないかな~って。

確かに不倫されてたらそれはそれで確かに嫌やけど、あの高成やし?あたしに飽きたり、あたしよりずっと綺麗なお姉さんが好きなんやったらあたしは敵う相手じゃないし?もしそうやとしても、あたしには千秋がいてるし、今は失うもんって千秋しかいてないのよ。それに、」

―――黙って聞いてる陽夏ちゃんをいい事にひたすら話し続け続けたあたしは、このタイミングで手に持ってた携帯の存在を失った。

まさか落とした?!と思って下を見てみたけど、落とした時に携帯が物にぶつかる音はしてないし、自分の体にも当たってない。

なんで?!と思って首を傾げると、ふと気付いた違和感。
しかも、あたしの真後ろ。

ゆっくり背後を見てみるとベージュのチノ。
そのままゆっくり顔を上げていくと、なんでか呆れ顔の高成がおった。