降ってくるキスの雨。
優しいキスからどんどん深くなって、首に回していた手に力が入っていく。
体勢が辛くなって思わず服を握ると、ようやく離れた。

「…夜景見ながらする?」
「なっ?!なに言うてんのよ!アホ!!」
「誰がアホだよ。ムードねぇの」

夜景見ながらする方がよっぽどムードないでしょうよ!と言おうとしたけど、それは口唇を塞がれて言えんくなった。

「…昔はこんなんじゃなかったのに」
「もっと可愛かったってか?」
「うん」
「可愛い俺は猫被ってるって言ったのは涼じゃなかった?」

あたしから離れ、着ていたコートをソファにかけ、ベッドに腰掛けながら高成は言う。
あたしはそのコートと自分のコートをハンガーにかけ、高成の座る反対のベッドに向かい合うよう腰掛けた。

「なんでそっち座んの?」
「なんとなく」
「もしかして久々で照れてる?」

なに言うてんの?!と思ったけど、実際そうやしムダに心臓動いてるのは自覚してる。

久々の二人だけやしホテルやしキスもしたし?
相手が旦那と言えども多少なりとも緊張はするわけで?
旦那やから緊張するわけで、顔の熱が上昇するのがわかる。

「顔赤いけど?」
「ほっといて!」

完全に遊んでる物言いに悔しいあたしは完全に顔を背けてやった。
目の前の高成はあたしの気持ちも知らずに面白そうに笑ってるし。

付き合ってた頃はこんな高成じゃなかった。
さっきも言うたけど、ほんまに可愛くて優しくて、優しいのは今もやけど、強引な中にもあたしを気遣う部分があった。
やのに、同棲し始めたくらいから変化が出てきて籍いれてからは面倒くさくなったんか、しんどくなったんかわからへんけど、途中で猫を被るのをやめた。
それもある日突然やめた。

今まで優しかったのに今みたいに人をおちょくって面白がるし、強引さや行動力は増すし、あたしを拘束する時間も増えた。

付き合い始めに知った裏高成が完全に表に出てきた感じ。
正式には素の高成が出ただけの話やねんけど、それはそれは想像以上で最初は驚きの連続やった。

「こういう時だけブラックになるのやめてほしいんやけど…」

余所見してるのをいいことに何の躊躇いも無くあたしをベッドに倒し、覆いかぶさってくる。
見上げた高成はネクタイを緩めて近くのソファに投げた。

「これが俺なんだけどね」
「…知ってる」
「じゃあ、」
「でもそうやって簡単に脱がすのもどうかと思うけど?!」

動かずされるがままのあたしの脚を撫でる高成の手を必死で止める。

「自分で脱ぐの?」
「じゃなくて!」
「どういうこと?」

不服そうに顔をしかめる高成に戸惑う。
ずっと千秋と三人でおったから、久々にこの高成と向かい合うと対処の仕方を思い出すのに時間がかかる。

対処と言うても結局組み敷かれるのがオチなんやけど、それでもこのあたしの気持ちを少しでも汲んでほしいと思うのがまだ多少なりとも残る乙女心。

「あの、シャワーを、」
「あとでいい」
「でも…っ」
「無理」
「ちょ、待って!」
「待たない」

高成の進む行為に本格的に心臓もヤバくなってきて、どうにか気を紛らわそうとしてみたけど、やっぱり無理。

高成の口唇が触れたところが熱い。
緊張で手は震えるし目も潤んでくる。

「高成…っ!」

名前を呼ぶと手が止まった。
とりあえずホッと一息ついて落ち着かすよう小さく息を吐き出す。
でもそれも束の間の休息やった。

「涼」
「なに?」
「名前呼んだら逆効果」
「え?!ちょ、待っ、……っ!!」



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