「もしかして、千秋?」

そう言うと高成は「どうだろうな」と笑った。
どうやら教えてくれる気がないらしい高成の首に手を回して少し距離を詰める。

目の前にいる高成はずっとあたしを見つめてくれる。
夜景ではなく、あたしを見てくれてる。

「まだあるんだけど」
「え?」
「え?って、さっき見せただろ?」
「?」

さっき何か見たっけ?と考えてたら、さっき夜景を見に行った時に手のひらに置かれた小さな箱が目の前に現れた。
現れたって言うても高成があたしの視線の高さまで上げたんやけど。

「これは?」
「これは日頃の感謝の気持ちと初めてのクリスマスデート記念」
「結婚何周年祝い、とかじゃくて、記念品?」

くすくす笑うあたしに高成は少し拗ねた顔をして、「いいだろ、理由はなんでも」と、その小さな箱を開けた。
中から出てきたのは二つ並んだシルバーのリング。

「石は乗せてない。家事の時に邪魔だろ?だから埋め込んでる」
「これ、…ダイヤ?」

小さくてもキラキラ輝く宝石。
すでにあたしの左薬指にも付いてるけど、それは石が外に付いてるデザインで家事をしている時は引っかかるから、いつもはネックレスにして持ち歩いてる。

結婚指輪もあったけど、無くしたら嫌やから大事に直してる。
高成は結婚指輪を付けてるけど。

「どう?気に入った?」
「うん!超気に入った。これなら毎日付けられる」
「だろ?手、出して」

あ、同じだ…そう思った。
そして迷わず左手を出す。

初めて高成に指輪をもらったときも同じセリフをあたしに言うた。
その時のあたしは何のことかわからんくて、首を傾げたら「手だよ、左手」と苦笑されたっけ?

「今回は首傾げないのか?」
「それ、あたしも考えてた!」

高成も同じ気持ちやったみたいで二人で笑い合った。

あの時はプロポーズもしてくれて、あまりにも感動しすぎて号泣した。
号泣しすぎて嗚咽は出るしメイクは取れるし、目は真っ赤になって腫れるしで醜態をさらしまくった。

でももう泣くようなことはない。
プロポーズの言葉がなくても、もうあたし達は結婚して子供もいてるし、楽しい人生を送ってる。

「じゃあ、高成も」

箱からもう一つのリングを取り出し、高成の左手を支える。
なんか結婚式の時みたいでちょっと緊張する。

「やっとお揃いで付けられるな」

そっと嵌めたあと、そう言って顔を上げると高成は「結婚して何年経ってんだよ」と呟いた。

「でも、これはずっと一緒やで?」
「当たり前だろ」

そう言いながらあたしが掴んでた高成の手は腰に回り、再びあたしを抱きしめた。

「で、涼からのプレゼントは?」

キタ…っ!と思って、調子に乗って首に手を回したことを後悔した。

こんな空気を自ら作っておきながら、実は無いの。ごめんね!とか軽く言えん。
期待はされてないと思うけど、無いのとそれとはまた違う気がする。

あたしは高成の言葉ににっこり笑って、とりあえず黙って誤魔化すことにした。

「なに笑ってんの?」

―――笑顔。

「もしかして、無いの?」

――…笑顔。

「え、ほんとに?」

………笑顔……は、さすがに出来んくて俯いてしまった。
それでも高成は、

「ま、俺はあってもなくてもどっちでもいいんだけど」

―――と、あっさり言うた。

結局、あってもなくてもどっちでもいいってことは、あたしからのプレゼントは期待してなかったっていうことらしい。

高成はそれで別にいいやろうけど、それはそれで嫁としてどうなの、あたし…!と自己嫌悪に陥る。
旦那に期待されてないあたしってどうなん?と突き落とされた気分になる。

「悪い意味じゃない。俺は俺でちゃんと貰うつもりだし」

なにを?と聞く前に顔を上げれば視界いっぱいに高成の笑顔。
まさか…、と思ったとおりの高成の行動。

「…キスがあたしからのプレゼント?」
「まさか。なんの為にスイート予約したと思ってんの」

そう言って今度は腰を引き寄せ、あたしは爪先立ちになる。