結局、何事も無く…もちろん高成の不機嫌が直ることもなくディナーは食べ終わり、休憩することなく店を出た。
木藤さんも「よいクリスマスを」と笑顔で言ってくれて、ここでもあっさりと店を出てきた。

ディナーの余韻など全く感じさせずに移動開始。
一体なにがあったんや?!と思いたくなるくらい今日の高成は忙しない。

せっかく二人で過ごすクリスマスなんやからもうちょっとゆっくり時間とってくれてもいいのに!って思うけど、ここで更に高成の機嫌を損ねるのはよくないのはわかってたし、何も言わずに付いて歩いた。

「車に戻らんの?」

高成は店を出ると駐車場を通り過ぎ、海辺へ向かって歩いた。
ここから少し歩けば港がある。
夜景が綺麗でカップルが一度は訪れるデートコースにも選ばれてる場所。

「ちょっと高成!待ってって...うわっ」

冬の海風が肌に当たって少し痛い。
強く吹いた風でマフラーが顔に当たって前が見えんくなった。
髪も一緒に舞い上がって慌てて戻してると「なにやってんだよ」と高成の手が髪に触れて綺麗に整えてくれた。

「だって、さっき風が、」
「はいはい。ほら行くぞ」

雑に頭を撫でて、あたしの右手を取ると、しっかりと握ってゆっくり歩き始めた。
さっきの態度からは全く想像できんような優しい態度。

風であたしの髪が舞い上がる度に整えてくれて、展望台まで行くと寒さで赤くなった顔を「可愛いな」と笑う。

態度が一変して逆に怖いわ!とツッコミたくなるような変わりように驚くあたしはただただ高成のペースに流されるまま。

「うわ~!超綺麗!!」

ここへ来てからはまともなデートなんか一度もしたことなくて、ここに来るのももちろん初めて。
昼間に通ることはあっても夜景を見ることは一度もなくて、初めて見た景色にただ感激した。

「見て!むっちゃ綺麗!!ツリーもおっきくて綺麗」

大きなクリスマスツリーが見下ろせるこの場所はツリーを囲む恋人たちを幸せの灯りで照らしてる。

見てるこちらも幸せになる光景。
こんな気持ちにさせてくれるのがクリスマスなんやと改めて思う。

「涼」

隣に立ってた高成に視線を向け、視線が合うと合ってた視線が下げられる。
ん?と思って同じように視線を下げると高成の手のひらの上には小さな箱。
それはエンゲージを貰ったときにも見た小さな箱。

「でもあげるのは後で」

手を伸ばそうとしたら、ひょいと持ち上げられてそう言われた。
じゃあ出してくんなよ!と貰う気満々やったあたしは厚かましくも心の中でそう言うてしまう。

口には出さんかったけど、伸ばした手を下ろして窓の方へ視線を戻そうとすると「じゃ、行こうか」と手を引かれる。

今日の高成っていつも以上に強引じゃない?!と思ったけど、強引なのは出会った日から知ってたことやし今更な気もするけど、もう少し夜景の余韻をちょうだいよ!と思っても今の高成には伝わらんやろう。
あたしは引っ張られるがまま歩き、今度こそ車に乗り込んだ。