行き先は聞いてない。
もう数年も前になる初デートを思い出す。
あの時も高成はあたしの車を運転して水族館に連れて行ってくれた。

昨日の晩にどこに行くんか聞いてみたけど一切教えてくれんかった。
どうやらサプライズ的なことをしてくれるらしい。

「ちなみに行き先は夢の国?」

サプライズってわかってるけど、やっぱり気になるから聞いてみたけど「違う」って言われた。

ちょっと期待した夢の国。
千秋が産まれてから行ってない夢の国。
久々に行きたいと思ったけど、やっぱり違うらしい。
やっぱり、というのは高成が好きじゃないっていう意味。

高成はあぁいうのがあんまり好きじゃない。
意外と現実主義で夢がないっていうか、なんていうか。
千秋が女の子やったら付き合って行ってくれるやろうけど、千秋が男の子やからよけいに機会がない。

ちなみに谷口一家は第一子が女の子で奥さんが陽夏ちゃんやから…言わずとも想像できるやろう。
あの京平が夢の国に行ってるって初めて聞いたときは想像だけで30分間笑い続けた。

あの京平が夢の国!!!と大爆笑し続けるあたしに追い討ちをかけるように「杏にも“パパ似合わないね”って言われたんですよ」と陽夏ちゃんが言うから、ここで笑い死ぬんちゃうかってくらい爆笑した。

「久々に行きたかったな、夢の国」
「今度サラと行ってくれば?」

あたしの呟きにあっさりと返事をする高成の横顔を睨む。

あたしは家族で行きたいんやけど?!なんて口に出せんから視線だけで訴えておいた。
しかし運転中の高成が気付くはずもなく「うん、言うてみる」と小さく返事をするしかなかった。

窓の外はクリスマスカラーにネオン。
幸せそうな恋人たちに家族連れに、プレゼントを片手に家路を急ぐお父さん。
あたし達以外にもこの日を幸せに過ごす人たちはおいっぱいおる。

二人きりのクリスマスっていつ振りやっけ?と記憶を手繰り寄せながら過去の記憶を思い出す。

千秋が産まれる前は二人やったけど、千秋がお腹におったから外食しただけで家でゆっくり過ごしたのが一番新しい記憶。
その前はあたしが仕事を辞めてこっちへ来て同棲し始めた頃。
でも、クリスマスにちょうどライブが重なって一緒に過ごせんかった。
その前はまだ向こうにおって、仕事が休めんくて25日の夜から丸一日一緒におったけど、次の日の晩には帰ったような気がする。

なんやかんやで結局二人でゆっくり過ごしたクリスマスってなくて、今年初めて二人でゆっくりクリスマスを迎えられる。

「着いたぞ」

高成が車を止めたのはもう何度となく来たフレンチのお店。
ここも店長...中塚さんが教えてくれた穴場スポットで、超美味しいのに値段がリーズナブルで今では常連客になりつつある。

「ここなら教えてくれてもええやん」

車を降りて先を歩く高成の背中に言うてみたけど、返事はなし。
どうやら準備に手間取ったのがあかんかったらしい。

そんなこと言われても初めての二人きりのクリスマスやし、服もメイクもいつもよりは気合入れてしまうやん?
それに結婚して子供がおるって言うたって所帯染みたくないし高成の奥さんとして隣を歩くんやから見劣りしたくない。

今まで何度もこうやって言うてきたけど、「涼は涼のままでいい」としか言うてくれんくて、まだ付き合ってる時は会う度にその日が勝負って感じで少しの化粧崩れも気なるほど自分の身なりに気を遣ってた。

千秋が産まれてからは母親としても見られるから外見も多少気にしつつ綺麗なママでいられるように勤めたけど、そんな苦労も知らず「そんなことにお金かけなくても十分だから」と高成は言う。

女心がわからんやっちゃな~と思ったのを思い出しながら、高成がドアを開けると同時に余所行きの顔を作る。