あぁ、もう。
俯くなよ。
俯くのは泣きたいのを我慢してるんやろ?
俺はコイツを泣かしたいわけじゃないのに。

こめかみを少し掻いて、そのままコイツの頭に手を乗せる。

「だから、なんや!なんていうか、お前一人っ子やろ?だから兄ちゃんみたいな、そんな存在にしてくれたらええって話や」

ポンポンとあやすように軽く叩くと、俯いたままやけど、そのまま首を立てに振った。

そうそう、それでいい。
メンバー全員に役割がある中で、俺だけがなかった。

最初からこれが目的やった。
地元が一緒であることをいいことに、ナリに内緒で近づいて、俺を知ってもらって、コイツの中に“俺”というポジションを植え込んで、そうして役割を確立していこうと思ってた。

それがやっと、やっと今確立できた。
自分で言うよりも、コイツの中でそうなってほしかったけど、それはコイツには無理やったらしい。

こんな恥ずかしいことさせるのも、こんな恥ずかしいことをしてまう自分も全部コイツにだけや。
それくらい気を許してんのは、ナリよりも、他の誰よりも、俺なんかもしれん。


もし、もしもの話やけど。
もし、コイツがナリと知り合う前に俺と出会ってたら、俺がまだこっちにおったときに出会ってたら・・・もしかしたら、俺は自分の気持ちに素直になってたかもしれん。

今でこそ、“ナリの女”ってのがあるから、それにはちゃんとブレーキもかかるけど、もしそうじゃなかったら、俺はコイツを好きになってたかもしれん。
好きになって、ナリのようになってたかもしれん。
もしかしたら、ナリと恋敵になってたかもしれん。

それはそれでおもろいけど、そうなったら俺に勝算はないな。
アイツほんまに腹黒いから、どんな手を使ってでも奪いにくるやろう。

「お兄ちゃんって、あたしがお姉ちゃんの間違いやろ?」

そうやって憎たらしいこと言うのも、ナリを想って寂しそうにする顔も、バンドを思って考え込む悲しそうな顔も、サラの相談に真剣に乗る顔も、悟にからかわれて真っ赤になる顔も、京平に怒られてしゅんとする顔も、俺に向ける笑顔も、ずっと続けばいいと思う。

それが俺だけのものじゃなくても全然かまへん。
コイツはこのメンバーには必要で、俺にも必要で、そして、ナリが一番にコイツを必要としてて、コイツもナリを必要としてて、それでええんちゃうかって思える。

とりあえず、俺はコイツが笑顔でいてくれたら、それでいい。



これは“恋”ではない。
ナリの女である時点でそれはない。

コイツは俺にとっては元気の源であって、憎たらしい妹や。
妹やったら、終わりはない。
彼氏は友達になることはあっても、それ以外は戻ることはない。

友達は友達のまま。
このポジションが一番いい。

もし、ナリと結婚するようなことがあっても、悟のようにリアルに兄貴になることもないし。

「ややこしい話やな…」

ふぅ、と息を吐いて、目の前に座るコイツに目をやると「何がややこしいん?」と無防備に笑う。

人の気も知らんとヘラヘラ笑いやがって。
そんなところも気に入ってるわけやけど、こればっかりはしょうがない。

「なんもないわ!」と頭に手を乗せて、髪をぐしゃぐしゃと掻き回してやる。

ぐしゃぐしゃになった髪を手ぐしで直しながら、アホやなんやって文句言うコイツを俺はあったかい気持ちで見ていた。



-END-