もぉ~、なんなん?!とまだ怒ってるコイツの頭をポンポンとしてやると、それも一瞬で収まる。
そんで、なんやねん?って顔して俺を見る。
あー、その上目遣いは結構好きかもしれん。
・・・じゃなくて。
「俺がお前の頼みを断ったことないやろ?」
「うん?たぶん」
「うん?て、なんやねん。断ったことないし。それに!前もって言うてくれたら、もっとちゃんとした格好してくるし」
黙って俺を見たまま話を聞く姿は、なんちゅうか、子犬みたい。
目もくりくりしてるし。
気を紛らわすために、もう一回、ポンポンと頭を叩くと「痛いし!」と嫌がられて、ちょっと傷ついた。
「とにかく!ナリに気遣うのはお前の勝手やけど、俺には気遣うな」
そう言うと、黙ったままコクリを頷いた。
多少は怒られる、と思ってたらしく力の入ってた肩の力が抜けていくのがわかった。
表情も柔らかくなって、にへっとした顔で恥ずかしそうに笑う。
嬉しそうな顔しやがって。
ナリの前ではずっとそんな顔してんやろうな、と思うと少し妬ける。
俺ごときに気を遣いやがって。
そんなんされたら裏がありそうで変にドキドキするやろ。
もしかしたらドッキリでナリが出てくるんちゃうか、とか。
それはそれで怖いけど。
悟は兄貴分。
京平は喧嘩相手。
サラは妹兼友達。
ナリは彼氏。
・・・なら、俺くらいは“友達”みたいな関係でおるのも悪くないし、気も楽やし、その方が楽しいやろうと思う。
コイツが俺をどういう対象で見てんのかわからんけど、俺は“ナリの彼女”というのもあるけど、地元に帰ってきたら“地元の友達”とか“妹分”とか、そんな感じで接していきたいと思ってる。
まぁ、多少なりとも好み云々の話をするなら、また別やけど、なんかやんか己と格闘しても、“ナリの彼女”っていうポジションは俺の中からもコイツからも消えることはないわけで、これが友情なんか愛情なんかって聞かれたら否応なく“友情”って答えるやろう。
最初は最初、今は今。
第一印象、今の印象、今の俺の中のポジション、俺の気持ち、コイツの気持ち、全部合わせてグッチャグチャにして、それを広げてみても答えは変わらん。
絶対に言えるのは、どんな風に感じても思っても、“恋愛感情ではない”ってこと。
それだけは言い切れる。
兄妹愛みたいなもん。
出てきた料理をほんまに美味そうに食べるこの表情とか、「それは美味しい?」って人の料理を欲しそうにするとことか、「美味しいなぁ」って満面の笑みで言うところとか、ナリとはまた違う顔を俺が見ることくらい、それくらい許されるやろう。
それを見て俺は癒されるし、次の活力になる。
それやから帰省したら呼び出してしまう。
「・・・」
「涼介?食べへんの?」
いや、食べる。
食べるから、覗き込んでくるな。
色々考えたら、俺って実は危ないポジションにおるんちゃうかって思えてきた。
いや、完全に危ない橋を渡ってる最中や。
それもむっちゃグラグラしてて、落ちるか、戻るかの二択しかない非常に危ない橋。
「涼介?」
いや、そんなはずはない。
だって、今の今まで兄妹愛やって語ってたし。
それが当たり前で、当然やし!って日本語おかしいし。
「涼介ってば」
まさかな。
まさかそんなはずはない。
しかし、ここは戻るしかない。
渡るという選択は俺にはない。
それに渡ったところで、どうしようもない。



