今日は特にどこに行くって用事もない。
ギターは持ち歩いてるけど真っ昼間から触るのもどうかと思うし、なにより帰省してきて一度も家に帰ってきてないから荷物が多くて困る。

せっかく出てきてくれたのに、コイツを連れ回すこともできん。

「この後はどうすんの?」

タイミングよく聞かれて一瞬止まる。

どうするって、どうする。
いつも呼び出すのは夕方で、ここで集まって店に行く。
朝から呼び出すのは初めてで、その先なんか全然考えてなかった。
どこに行こうにも荷物はあるし、ギターはあるし、昼飯って言うても、たった今ケーキ食い終わったとこ。

無計画は後々後悔する。
勢いで呼ぶと、こうなってまうのがオチ。

「でも、その荷物じゃ無理やなー」

俺の足の周りにある荷物を見て考える。
頬杖付いて、考えてんのか、ボーっとしてんのか、どっちにもとれる姿勢で「んー」って言うてる。

「涼介、夜ヒマ?」

勢いよく振り向いて満面の笑みを向けられる。

俺の苦手な表情。
ヒマ?って聞かれたら、ヒマって答えてしまう顔。
ナリには悪いけど、ツボではある。
もちろん顔じゃない、雰囲気。
コイツがまとう空気。

「……ヒマっちゃ、ヒマ」
「ヒマか、そうか。じゃあ、行きたいお店があんねんけど、一緒に行けへん?」

友達が行ったらしくて、むっちゃ美味しいねんて!他の友達となかなか予定合わんくて。
でも、涼介ならOKしてくれると思って!



―――――
―――

「おい。俺が誰かわかって言うてんやろな?」
「え?うん」

目の前に広がるのはイタリアンレストラン。
しかも、ちょっと洒落た外観に、内装も白がメインの綺麗な店。
カジュアル全開な俺をこんなところに連れてくるとは恥知らずもええとこや。
コイツは最初からそのつもりやったらしく、綺麗な格好してきてる。

この店が俺の家の近くってこともあって、一旦荷物を置きに行ったとき、「ジャケットみたいなんあれば着てきてよ」って笑って言うから、言葉に乗せられて着てきたら、こんなとこに連れてこられるなんて。

「こんな店に来るんやったら最初っから言えや」
「だって断られると思ったもん…」

しゅん、と俯くコイツに溜息。
俺がコイツの頼みごとを断るわけがない。
断ったことなんか一度もない。
それに、最初っから言うてくれてたら、もっとちゃんとした格好できたのに、変に気遣いやがって。

下がったままの頭を無理矢理上げて、眉の下がった顔を見て思わず笑ってしまう。

「ちょっと、なんで笑うわけ?」
「いや、むっちゃおもろい顔してたし」

顔を真っ赤にして怒りを露にする素直なコイツに、またウケる。
遠恋のくせに、ナリが嫉妬もせず、電話だけでやっていける理由がよくわかった。

コイツは嘘が付けん。
あの胡散臭いオッサンの店に行き来しては、すぐにバレて怒られる理由がよくわかる。

素直すぎて、正直すぎて、わかりやすすぎる。
ナリはきっと、コイツのこういう所に惚れたんやな。
ナリには存在せぇへん部分やし。
アイツ、見た目以上に腹黒やからな。