「圭ちゃん!来年から始まるツアーのチケット取れたねん!!一緒に行こう!」
「ほんまに?!行く~!涼、ほんまに好きやな」

あれから4年。いまだファンを続けてる。
アルバムをリリースするごとに好きになってく高成の詞やメロディー。4年前よりも色気づいた歌詞にドキドキする。

歌詞を読み返すたびに、“恋をしてんのかな”とか、“彼女のことを想ってんのかな”とか、ファンとしての劣等感がわき上がった。その反面、嬉しくもあった。
高成が幸せなら、あたしも嬉しい。

あたしはあれから就職に行き詰まって半年間苦労した。その度に高成の声を聴いて元気をもらえた。
あの頃も、今も、いろんな意味であたしが高成を必要としていることに変わりはなかった。

「今回も見つけてくれるかな?」
「どうやろう?前回はなかったからなぁ」
「せやんなぁ。でも、よぉ約束守ってくれてるよな?」
「せやなぁ。もう、ないかもな」

高成はあのライブ以来、約束通り、あたしと圭ちゃんを見つけたら手を振ってくれる。
ぶんぶん手を振るわけじゃなく、軽く手を挙げて“誰か”を感じさせない、軽く挨拶をするような素振りで手を振ってくれる。

もしかしたら違うかもしれんけど、目が合ってからやから、そうやと思う。
それが前回はなかった。
そろそろ子供染みた約束も期限切れのときがやってきた。いつまでも同じじゃいられん。どこかで幕引きはやってくる。

今回はいつもより一回り大きいライブハウス。二階席もあって、観客数も多くなった。人気が出てきたことを実感する。
以前はバンド名を言っても知らない人の方が多かったのに、今では“私も好き!”って言う人が増えてきている。それがなんか悔しくて、嬉しいんやけど、寂しく感じる。
知らない人が少ない方がよかったって思ってしまう。
いつだって変わらない独占欲。仕方ないなぁって、自分で思ってため息が出てしまう。

整理番号は奇跡的に“A310”番。今まで“B”や“D”しか当たらなかったのに、今回は凄く運がよかった。
仕事も午後からは休んで、ずっとアルバムを聴いて予習をしていた。学校帰りの圭ちゃんも来るまで予習をしていたらしい。

30分ほど並んで中に入ってタオルを購入。毎回あたしはタオルを買う。記念に残せるモノは記念に残したい。

「また買ったん?」
「買った!」

買うだけ買って、使えんタオル。もったいなくて未だに大切に保管中。

「今日はどうする?後ろで立つ?」
「せやなぁ、前もいいけど後ろのがよく見えるし」

どんどん入ってくるあたし達と同じファン。さすがにライブハウスが大きくなっただけあって、一番後ろもはっきり顔までは見えんくなってきた。
人が増えていく度にドキドキが増していく。
時間を確認しては、まだかと胸がうずく。

また、会える。
高成に、会える。

何度ライブに来たって変わらん。
TAKAに会えることが嬉しい。

女の子の黄色い声、男の待ちわびていた声が室内全体に響きわたる真っ暗なステージから4人のシルエットが現れて、会場はさらに声が増す。
TAKAを呼ぶ声が聞こえる。
あたし達はフロア中央よりの真ん中あたりで、4人にライトがあたり姿が見えるのを心待ちにする。

1曲目の前奏とともに光が広がり、ステージには以前よりも少し髪が伸びたTAKAが真剣な顔でマイクを握ってた。そして、TAKAの声が広がる。全身に鳥肌が立つ。

「……う!りょう!涼ってばっ!!」
「な、なに?!」

圭ちゃんが大声であたしを呼んだ。

「さっきからTAKAがこっち見てる!!」

あんたどこ見てんの?と呆れた顔で見られた。無意識にステージに顔を向けないようにしていたのかもしれん。今回はなんだかうまくTAKAの顔を見ることができん。
これでとうとう幕引きだと思うと、本当に4年前のあの一夜を過ごす前のあたしに戻るんやと思うと、なんか自分の言動が恥ずかしくて、うまく顔を見ることができんかった。

1曲目が終わって、一度照明が全て落ちる。顔を上げると同時に点いた照明。

「あ・・・」

今、笑った?

「涼!!今、手ぇ挙げたよな?!」
「た、たぶん…」

ギターの音が鳴り、会場が再び沸き上がる。あたしは2曲目を歌い始めたTAKAから目を離せんくなった。

“多分”、なんかじゃない。
“絶対”、そう。
目が合って、小さく微笑んでから軽く手を挙げた。

少しはにかんだ顔。
あの夜に見た笑顔があった。

前に立っている女の子が「TAKAの笑顔めっちゃ可愛い!」と、言う。
なんか胸がざわつく。
あたしだけが知ってる笑顔。あたしのために向けてくれた笑顔。それやのに他の女に見られるなんて。

あたしだけが知ってたいのに、あたしだけのために向けた笑顔やのに。・・・なんて自分勝手で自己中心的な嫉妬なんやろう。
TAKAはみんなのTAKAやのに。

あの笑顔もあたしに向けた笑顔なのか、それさえわからんのに、あたしの心は嫉妬で埋め尽くされた。