ある年の大晦日。
あたしは元旦サプライズのために、ある所まで来てる。
もうすでに計画は進んでて、今は“ある所”へ向かう途中。

大晦日というのもあって、なかなか時間通りに動けんくて、ちょっと時間は押してるけど、一応計画通りに進んでる。

時計が0時を差した途端に響く着信音。
周りは息を呑んで呼吸する音すらさせんように気を引き締める。

「あけましておめでとう」
《あけましておめでとう》
「今年もよろしく」
《こちらこそ。...やっぱり直接言いたかったよ》
「うん、あたしも」

数時間ぶりに聞く声。
言葉に気持ちが入りすぎてて、ちょっと良心が痛む。

《風邪、大丈夫か?》
「うん、ありがとう」

ほんまにあたしを心配してくれる声に騙してるような気がして苦しい。
これもサプライズの一環で決して騙してるわけじゃないけど正直辛い。

背後では電話が拾わん程度の小声で話す3人。
なるべく距離をとって歩いてるけど、すでにしくじってることに気付いた。

道も知らんのに、いつの間にか先頭きって歩いてる。
なんかわからんけど、急に焦ってジェスチャーでなんとかしようとするも3人は会話に夢中で気付いてくれへん。

T字路に来るとさすがに勝手に行けんくて、高成と会話をしながら3人を待ってた。

「っ?!」
「痛っ!」

進行方向を見ながら電話してたあたしは背中の衝撃に思わず出そうになった声を抑えたけど、ぶつかってきた相手は正直やった。

一人に頭を叩かれて突っ込まれ、もう一人は叩いたことに怒って全員が小声で話し出す。
思わず口を押さえた。

《後ろ、声がするんだけど》
「へ?!そう?」

あまりの焦りに声が裏返り、疑念を強めてしまった。

《なに焦ってんの?》
「焦ってないし」
《・・・》
「・・・」

沈黙。
この場合の沈黙は気まずさではなく、吟味してる。
耳を澄まして携帯が最大限に拾う周りのノイズを真剣に聞いてる。

声を出せばええんやけど、出せば後が怖い。
ここは喋るべからず。
ワントーン低い声色。
いつものセクシーボイスも今日ばかりは優しくない。

《涼》
「はい」
《嘘は?》
「いけません・・・」

完全に怒ってる。
話し方が変わってる。
普段出てけぇへん裏の部分が顔を出してる。

《誰がいんの?てか、今どこなの?》

こうなったら先は長くなる。
しかし、今言うわけにはいかん。

「・・・」
《・・・》

そして、黙秘権施行ゆえの沈黙。

「あ!涼ちゃん、ここ左ですよ!」
「!?」
《は?》
「あっ!!」

---絶対絶命。
そして、時すでに遅し。