ー高成sideー


おやすみ3秒で寝息をたてた涼の額にかかる髪をよけながら寝顔を眺める。

本当は今頃、俺が前もって用意してたホテルで過ごしてるはずだった。
結局はキョウとサラのモノになってしまったけど。
でも、この寝顔を見ていたら、それすらどうでもよくなる。

ずっと忙しくて、正直今日がクリスマスイブだっていうことを完全に忘れてた。
昼前にサラがキョウに会いに来て俺がいることに驚いていたことにも理由がわからなくて。「何時から涼ちゃんに会うんですか?」の一言で思い出した。

どんだけ仕事好きなんだ、と呆れた。
キョウみたいに音楽バカにはなりたくないって思ってたのに、いつのまにか洗脳されていたらしい。

涼に電話した一週間前はちゃんと覚えてたし、プレゼントもちゃんと考えてた。
でもその当日を忘れるなんてどうかしてる。

休みを取っていたからオフだったのにキョウの家で曲を作ってた。
キョウも気付いていたなら言ってくれりゃいいのに「喧嘩したのかと思って」と、どうでもいいように言ってた。
んなわけないじゃん、って言ったって忘れてた俺が完全に悪いわけで文句は飲み込んだ。

携帯を取り出して涼にコールする。
とっさに思いついたのがアレだった。
クリスマスのゲリラライブなんてあるはずない。
そんなこと出来るようなレベルに達してない俺たちにそんなことができるはずがないのに涼はあっさり信用した。

素直で疑うことを知らない所は涼のいいところだけど困った部分でもある。
頑張ってと言った涼の声は我慢してる感じだったし、逆に会いにくるって言葉もなかった。

それはこの際どうでもいい。
遅くなっても行くつもりでいたのは本当だし、来てもらうつもりもなかった。
なんてったって忘れていたのは俺の方だから。

『私も一緒に行っていいですか?!』

これは予想済みだった。
3日前くらいから様子がおかしかった。
いつもキョウにべったりのサラがこなくなったから。

それについては涼介も不思議に思っていたらしくて彼氏であるキョウ自身は全く気付いてないようだった。
それでもその言葉を聞いたときはさすがに異変に気付いたらしいけど頑なに話そうとしなかった。

電話したら?って言ってみたけど、いつも聞き分けのあるサラが「絶対会いたい」って言い張るから俺もしょうがなく付いてくることを了承したわけだけど、まさかあんなことになってるなんて思いもしなかった。

涼とサラが部屋を出てから俺たちも二人で部屋に向かった。
じゃあ、キョウの名前は聞こえるしサラは泣いてるしで入るにも入れなくなって部屋の前で聞き耳立てるとサラの言葉で直立不動。
キョウもそれには驚いたみたいで瞬きもせずに固まってた。

さすがに長いこと付き合ってるとそういうこともある。
涼は一瞬驚いてたけど冷静で対応は早かったし、むかつくけど‥‥キョウの事もよくわかってた。
だからサラが落ち着くのもかなり早かった。

キョウが空気に耐えられずに入った部屋の先には驚いた顔をした二人がいたけど、サラもすっきりした顔をしてて安堵から溜息が出た。
このままアレじゃあ、せっかくのイブもゆっくり過ごせない。

サラが涼を信用していて大好きなのは話を聞いてりゃ嫌でもわかる。
でもキスはない。
もちろん涼も。

初めてキョウが涼に対してキレる理由がわかったような気がする。
それでもあそこまで器は小さくない、と思いたい。