階段もあと少しのところで、珍しく母の笑い声が聞こえる。
いつもよりハイらしい。
どうせ酒でも飲んで酔ってんやろ、そう思ってた。

「たーくん、可愛いなぁ!」

“たーくん”って誰?
声から母はご機嫌なのがわかる。
父も今日は家におるし、もしかしたら友達が来てんのかもしれん。
だから久しぶりに母も飲みっぷりがいいんかも、そう思った。

友達なら挨拶しとかんと、そう思って開けたリビングに続くドアの先にはまさかの光景があった。

「りょ、」
「涼!!あーんた何その顔!!たーくん、ほんまにアレが彼女でええわ
け?」
「・・・」

ありえん。
いろんな意味でありえん。
ドッキリ?
最初から仕組まれてた?
でも成り行きって言葉も存在するし、ただ計画されてのコレなら信じたくない。
いや、マジでありえん。
ない、ない、ない。
絶対ありえん。

とりあえず、一旦ドアを閉めて一呼吸。
今見た光景が幻であるようにと祈る。
絶対、幻であるように両手を胸の前で組んで必死で祈る。
もう一度、深呼吸をして一分前をやり直すかのようにドアを開けた。

「涼~、あんた何してんのよ。待たしてんじゃないよ」

ねぇ、たーくん!と、またもや“たーくん”に同意を求める母が嫌でも視界に入る。
“たーくん”は嫌がることなくホストのように母の相手をしてる。

「...なに、やってんのよ」

多分、蚊ほどの声やったと思う。
それでもその声は聞こえたらしくて、

「あ、涼ちゃん!急にお邪魔してすみません!」
「いや~、お前はええヤツや!どうや、涼の嫁にくるか?」
「いや、タイプじゃないんで」
「おじさんヒドイです~!京ちゃんは私の彼氏だって言ったじゃないですか!」
「ははは、冗談やん」
「ねぇ、たーくん。あの女でほんまにええのぉ?」

父も母も酒に溺れて壊れてる。
なんか、ほんまにもう予想外。

「ありえん・・・」

出た言葉は溜息と一緒に深く、このリビングの光景も嘘やと思いたくて再びドアと閉めて二階の自分の部屋に向かった。