『24日、俺が会いに行くから』

 一週間前の今日、1ヶ月ぶりの電話でくれた言葉に完全に浮かれたあたし。

《今日、行けなくなった》

仕事やもん、しょうがない。
クリスマスライブって珍しいことじゃないし、サプライズのゲリラライブってなら納得せざるを得んことくらいわかってる。

《ごめんな?》

高成が謝る必要ない。
仕事ならしょうがない。
高成が会いに来れんなら、あたしが会いに行けばいい話。

それやのに完全浮かれきってたあたしはあまりのショックにその言葉すら言えずに高成に謝らせてしまった上に『全然ええよ!頑張ってな』と軽く突き放すような言葉しか出てこんかった。

《じゃあ、リハがあるから…》

その言葉にも「うん」としか答えんくて、あたしから切ってしまった。

感じ悪いよな、と思ったけど、膨らみすぎた期待を一気に割られた衝撃で悲しさと寂しさに負けて高成も同じ気持ちでおるはずやのに言葉一つかけれんくて、結局‪21時に‬なった今でも“メリークリスマス”を言えずにおる。
ほんま残念な彼女。

「彼氏持ちの女が家におるって寂しいなぁ」

30分前、リビングでテレビを見てたら背後から母がからかうように絡んでくるから部屋に篭って一人ベッドの上でどうしようか考えてたとき、机に置いてた携帯のバイブが鳴って勢いよく起き上がり手にとるとサブ画面には[着信 陽夏ちゃん]の文字。

また期待をしたあたしは溜息を吐きそうになって慌てて飲み込み鳴りつづける携帯を耳にあてた。

「もしもし?」
『あ、こんばんは!突然ですけど今どこにいるんですか?』

ほんま突然やね。てゆうか、それ聞いてどうすんの?思わず聞きそうになった。

「家やけど...」
『そうですか、じゃあ‥』
「じゃあ、てもう切るん?!てか、今日ライブやったんやんなぁ?どうやった?」
『え、ライブですか?えっと、あの‥‥』

バンドのことなら何でも知ってる陽夏ちゃんが珍しくどもってる。
もしかして知らんかったんかもしれんけど、京平に限ってそれはないはず。

「行ってないん?」
『いや、あの、‥‥はい!行けてないんです』

そんな張り切って言わんくても、と違和感感じながら思ったけど相手は新幹線で‪2時‬間もかかる先におんねんから疑ってもしょうがない。

『あ、京ちゃんが呼んでるんで切りますね!涼ちゃん、メリークリスマス!』
『メリークリスマス」

陽夏ちゃんはこれから聖なるクリスマスを京平と一緒に過ごすんやろう。
独占欲が強くて嫉妬深い京平のことやから陽夏ちゃんと話してるあたしにイラッとしたんやろう。

とっくの前に電話なんか切れてんのに携帯を耳から離せんかった。
一番最初に聞きたくて、一番最初に言いたかった言葉を一番言いたい相手に言えんくて涙が出そうになった。