なんでもかんでも一番ってか。
俺もそうやって思える女がいつか現れるんやろうか・・・涼以外に。
まぁ、涼の場合は一番云々は置いといて、幸せであってほしいだけなんやけどな。

「で、涼介は涼ちゃんのこと、好きなの?」
「…は?」

突然の質問に口が開きっぱなしになる。

「いや、すごく涼ちゃんと仲良しだし、すごく可愛がってると思ったから」

言いたいことはよくわかるけど、そんなわけない。
可愛がってるのは間違いないけど。

「好きなことに違いないけど」

そのとき、スタジオのドアが開き、中からは涼が出てくる。
そして俺と悟を交互に見て、笑いながら近づいてくる。

「妹みたいなもんや。恋愛云々の話とちゃう」

そっか、と悟が言うと同時に「涼介、悟さん!」と名前を呼ばれる。

「ま、俺もそんな感じだね。どうせ未来の義妹になるんだろうし」

そっからそこの距離やのに走ってきた涼は「なんの話してたんですか?」と首を傾げる。

機嫌もすっかり直って、いつもの笑顔を向ける涼に安心する。
ちらっと見たドアにはナリが眉間にシワを寄せて睨んでる。
しかも、俺だけを。

どうせ俺が全部悪いんやろ。
俺が涼を気に入って可愛がってることが気に入らんねやろ。

溜息吐いてニヤリと笑みを返す。

「ちょっと、涼介?」

涼を引き寄せて後ろから抱きしめる。

頭一個分違う涼の頭に顎を乗せてゴロゴロすると、下からは「痛い!顎が痛い!!」と言いつつも離れへん涼をいいことに視線はナリへ。

顔全体が歪んで握りこぶしすら作ってる。
ヤバイ、楽しすぎる。

「最終的には俺がフォローするんだから適度にしててよ」

そう言って悟は止めることもせず、携帯を取り出し電話をかける。
どうせ相手は薺やろ。
愛妻家も大変や。

「ちょっと痛い!」
「お前、ちっこいなー」
「うるさい!」
「・・・涼」

あ、とうとう来た。
ものごっつい怒った顔で目の前に立つナリは名前は涼を読んでても、視線は俺できっつい目で睨んでる。
男の嫉妬丸出しや。

「涼、手」

俺の腕の中におる涼は「へ?」と言って自分の手を見下ろすと、自分を抱きしめてる腕に自分の手を置いてたことに気付いて慌てて離した。
そんで、上を向いて睨まれる。

いや、俺を睨まれても。
てか、意地悪ってわかってるらしく、ちょっと口元が緩んでる。

なんかやんか言うても嫉妬されて嬉しいてしゃーないんやろ。
俺も損な役回りや。
涼のためならってのも苦労が絶えん。

「涼介、離せ」
「はいはい、離したらええんやろ」

素直に離したら、腕を引かれた涼は簡単にナリの腕の中に収められる。

真っ赤になって可愛らしい顔して、幸せそうにしやがって。
‥‥お兄ちゃんは悲しいわ。

「ほなな」と手を上げると「涼介!」と呼ばれた。
振り向くと“ありがと”って口ぱくで言いながら笑ってて「はいよ」と手を振った。
今日はリハも終わって何もない。
駅までの道のりを一人で歩きながら考える。

そうか、アイツらの痴話喧嘩の原因は俺か。
それはそれでおもろいけど、涼が帰ったあとは気ぃ重いな。

絶対空気重いんやろな。
ま、多少の意地悪くらいバチ当たらんやろ。

そう思いながら次は何しようか考えながら駅へ向かった。




-END-