時の歌姫

何かおかしいと気づいたのは5曲ほど過ぎたところだった。


観客が静か過ぎる。


シルクのナンバーはバラード調が多かったけど、

5曲の間、拍手一つ聞こえてこなかった。


だからと言って、観客が聴いてないかというとそうでもなくて。

みんな前を向いたまま、飲み込まれたみたいに視線はステージに釘付けで。


そう。

−−誰も微動だにしない。

やだ、何か恐い。

そうだ、ヤス兄は?


隣のヤス兄も始まった時と同じで前を向いたままだ。

「ねえ、ヤス兄?」

そっと腕に触れてみた。