時の歌姫

「そろそろ始まるから顔合わせはステージの後で」


と言われてあたしとヤス兄は客席へと向かう。

ほっとしたような気の抜けたような不思議な気持ち。

立ち見客の脇にいくつか置かれていた関係者用のパイプ椅子にあたしたちは座った。


まだステージには誰もいないのに、まっすぐに前を見ているヤス兄の顔をあたしは眺めていた。


勢いでついてきちゃったけど、彼女のステージを見るのが恐い。

打ちのめされた上、もちろん一人で帰るはめになるだろうし。

始まる前に帰っちゃおうか、なんて迷ってるうちに、

ステージに虹色の光が差した。


−−手遅れだ。