時の歌姫

ピンと伸びた大きな背中の上でふわふわくせ毛の頭が揺れている。

後ろ姿も間違いない。

やっぱり昨日の彼だよね。

ほんとに覚えてないのかなあ。

だとしても、やっぱりお礼は言うべきな気がする。

命の恩人だものね。


で、でも。

取りつく島がなさ過ぎる。

「ごちそうさま!」


あたしが迷ってるうちに、彼は飲み終わると伝票の上にさっきの千円札を置いて、

「あ、ありがとうございましたぁ」


あたしの言葉が終わる頃には背中を見せて歩いていた。


もう!何なの、いったい。