時の歌姫

お好み焼きを口に入れたまま放心していたあたしの前で、ヤス兄がヒラヒラとヘラを振った。


くっきりした眉の下で、キラキラ光る黒い瞳。


いつだって高い目標を決めては難なくクリアしていくあたしのヒーロー。


言えない。

やっぱりヤス兄には言えないよ。


子供の頃からの夢をあたしがあきらめようとしているなんて。


「ううん、何でもない」

「そっか。じゃあチューハイ飲むか?」

「うん!」


「おばちゃん、ウーロンハイ二つ! あ、あとテレビいいかな」