「どこ行くの?」


「まあ、まずは俺たちが住む街に帰ろうぜ」



そうだ、すっかり忘れていた。
ここはわたしがいつも劣等感を感じながら生きている家がある街じゃない。


楽しいことばかりですっかり馴染んでしまったこの街との別れが寂しくなってくる。


ここを出れば、また劣等感を背負いながら生きていかなきゃいけない。
そう思うと、すごく重たくて深いため息が出そうになる。



「そんな顔すんなって」


ぽん、とわたしの頭の上に置かれた大きな手
そちらに視線を向ければ、要くんが柔らかく微笑んでいた。


「別に変な顔はしてないよ」


「してたっつっーの。
俺の目をごまかせるとでも思ってんの?」


「お、思ってるよ?」


「それは勘違いだな、全くできてないからな。

まあ、余計な事考えてそんな息が詰まったような顔するぐらいなら俺のことでも考えとけ」


「なっ…!」


ぼん、と音を立てて顔が赤くなるような気がした。
だって、要くんがそんなこというから…



「俺のこと考えてたらその変な顔もどうにかなるだろ」



なんて、おどけたようにいう君の優しさにまたわたしの心は救われた。