『お兄ちゃんはそれでいいの?好きなことしたくないの?』
そう聞くとお兄ちゃんはわたしの頭に手を置きながら、優しく微笑んで
『俺は自分の意志で医者になりたいんだ』
誇らしげに、少し照れくさそうに言ったお兄ちゃんの顔は一生忘れられない。
そのときにお兄ちゃんはすごい、と改めて実感した。
と、同時にこんなすごい人にわたしが超えられるわけがない、という劣等感も芽生え始めた。
そんなお兄ちゃんを両親が好かれないわけがない。
全部わかってるつもりなのにどうしてこんなに辛いんだろう。
「…ありがとう」
小さな声でお礼を言うとお兄ちゃんはニコリと優しい、わたしの大好きな笑みを浮かべた。
「純恋もちょっとは泰知を見習いなさいよ。
今回のテストでもトップだったんだから」
自慢げに、そして心底嬉しそうに頭の上に音符をいくつも浮かべて話すお母さん。
その隣で何も言わないけれど、頬は緩んでいて“満足だ”とでもいいたげな顔をしているお父さん。
お母さんの言葉とそんな二人を見て、わたしの胸はチクリと小さく痛んでせっかく要くんのおかげで閉じていた傷口が再び開いてしまった。



