そう思うととたんにこの空間にいるのが嫌になって「手…洗ってくる」と思い出したかのように演技をして立ち上がり、洗面台に向かった。
こんなところ居心地が悪い。
家にいて穏やかな気持ちになる時なんてなくて、いつもプレッシャーを掛けられ、切羽詰まって惨めな思いをするだけ。
洗面台に着くと、水を流して手を洗う。
水は冬が近いというのに冷たくて…まるでわたしの両親のようだ。
ザーザーっと水が流れる音だけがわたしの耳に届く。
いや、ほかの音が聞ききたくなくてほかの音をシャットダウンしてしまっているからそう思うんだ。
だって、どうせ今リビングではお兄ちゃんのことを褒めまくっている最中だろうから…
そんなのを聞くともっともっと自分が惨めになって生まれてきた意味が分からなくなりそうだし。
でも、いつまでも洗面台に滞在していることなんてできなくて、一度重いため息をはぁ…と吐いて、覚悟を決めリビングへと戻った。



